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【写真学生によるワークショップレポート】澤田知子さんと参加者が紐解く『他者へのまなざしに映る自分自身』

ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)で開催中の展覧会『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』と日本写真芸術専門学校(NPI)の連携企画として、出展作家のひとりである澤田知子さんによるワークショップが開催されました。
今回、NPI在学生である私もワークショップに参加しました。当日の様子と作品を通じて得た気付きを、等身大の視点からレポートします!

澤田知子 Tomoko Sawada
兵庫県神戸市生まれ、在住。成安造形大学造形学部デザイン科写真クラス研究生修了。デビュー作《ID400》で2000年度キヤノン写真新世紀特別賞、2003年度木村伊兵衛写真賞、ニューヨーク国際写真センターのThe Twentieth Annual ICP Infinity Award for Young Photographer 受賞。2009年から文化庁新進芸術家海外研修制度により、2年間ニューヨークにて研修。世界各地で展覧会を開催するほか、写真集や絵本を出版。

30年間で2000回以上の変装
澤田知子さんが語る「セルフポートレイト」の原点

ワークショップは、澤田さん自身のこれまでの歩みと作品紹介から始まりました。写真や映像、絵画、グラフィックなど、学生時代は幅広い領域を学んでいた澤田さん。ある日、写真の授業で出された「セルフポートレイト」の課題で初めてその表現手法を知り、そこから30年間、実に2000回以上もの変装を重ねていくことになります。
森村泰昌氏の教え子であった担当講師が当時の授業で見せたのは、セルフポートレイトの先駆者であるシンディ・シャーマンのドキュメンタリービデオでした。その影響もあり、クラスメイトのほぼ全員が思い思いに変装して課題に挑んだといいます。その後4年制大学へ編入し、畑祥雄氏のもとで本格的にアートや写真を学び始めました。
デビュー作となった1998年の卒業制作<ID400>以来、一貫して「外見と内面の関係性を探る」をテーマに据え、これまでに20以上のシリーズを発表。社会の中で感じとった違和感を切り取り続けています。

「制作過程で私自身が考えていることが、このワークショップを通して体感としてわかると思う。」

澤田さんの言葉通り、今回のワークショップは単に作品を「鑑賞する」だけではなく、作品を通して澤田さんの、あるいは自分自身の視点を見つめ直すような、深い体験が待っていました。

ワークショップ実践
1枚の写真から広がる膨大なペルソナ

今回のワークショップでは、事前課題として、「Aさん・Bさん・Cさんそれぞれの写真を見た印象から、写っている人物がどのような人物であるかを、自分の知り合い(または友人)であると仮定し、自由に想像してワークシートへ記入してください。」という課題が出されました。
題材となったのは、澤田知子さんの作品<OMIAI♡>シリーズに登場するAさん・Bさん・Cさんの3名です。
会場では年齢もバックグラウンドも異なる参加者が4つのグループに分かれ、それぞれのシートを共有。最も面白いシートを書いた代表者が、全体に向けて発表するという形で進められました。

【Aさん】重なる現実と、作家の裏話

私のグループで特に印象的だったのは、Aさんに対して「高円寺の日本語学校に通いながら美大を目指している中国人留学生で、現在モーショングラフィックスを制作している。自分の作品が認められるか不安で、たまに内臓がキューッとなる感覚を覚える」という、克明なペルソナを描いた参加者のシートでした。聞けばその方は実際に日本語学校の先生をしており、かつての生徒の友人の面影を重ね合わせたのだといいます。現実の経験が、そのまま写真の人物像へと投影された瞬間でした。
全体発表では、別グループの代表者が「年齢は20歳、弟がいて神戸在住、おばあちゃんと同居している」というプロフィールを紹介。これには澤田さん本人も「撮影当時の私の境遇とほぼ同じ」と驚かれていました。また、初期作には友人があだ名をつけていたという裏話も明かされ、Aさんは当時「おはなちゃん」と呼ばれていたそうです。

【Bさん・Cさん】共通するイメージと、深まるドラマ

Bさんに関しては、多くの参加者が「デパート勤務」「エレベーター嬢」といったファッション・サービス系の共通イメージを抱いていました。しかし、共通しているのは職業のイメージだけでなく、抱えている悩みが深いという点。澤田さん曰く、このように特定の写真に対して多くの人が共通のイメージを抱く現象はよく見られるそうです。
一方、Cさんになるとイメージは一変。「ヤクザ」「レディースの頭」「キャバクラ経営」など、総じて「ママ感」「姉御肌」の強いキャラクターが並びました。さらに、想像された過去のドラマも壮絶で、「父親が蒸発」「母親に刺されたことがある」「弟の失敗の後始末をした」など、1枚の写真からハードボイルドな物語が次々と紡ぎ出されました。ちなみにCさんの当時のあだ名は「姉御」。過去に実施された作品投票では、大阪での人気ナンバーワンはダントツで「姉御」だったそうです。ちなみにAさんは東京人気ナンバーワン、Bさんは全国で不動の人気を誇るという、興味深い地域性の違いも語られました。

客観的な視線の先に浮かび上がる、自分という存在

グループ発表を終え、澤田さんは「アートをどう見たらいいか分からないという人もいるが、まずは直感的に感じることが大切。たった1枚の写真からこれほど膨大な情報を読み取れる皆さんは、すでに素晴らしい想像力と才能を持っている」と振り返りました。私たちが普段、街中や電車の中、あるいはSNSのタイムラインで無自覚に行っている「この人なんか優しそうだな」「ちょっと苦手かも」という第一印象のジャッジ。現代はSNSの普及によって、1枚の視覚情報から背景を読み取る力がかつてないほど強くなっているのかもしれません。
しかし、澤田さんはこう釘を刺します。「見ているのは同じ人間なのに、外見によってこれほど背景や人生が違って見える。でも、それは外見だけ。実は中身は全く違うかもしれない」たった1枚の外見から、私たちはどうしてこれほど豊かな、あるいは偏ったストーリーを無自覚に作り上げてしまうのでしょうか。その理由を突きつけるかのように、本質的な気づきを言葉にしたのは、同じグループにいた同級生の吉川さんでした。

「人のことを書いているつもりが、自分自身が見透かされているようで、非常に怖かった。」

他者の人生を想像しているようで、実はそこに自分自身の経験や価値観が、鏡のように映し出されていたのです。

【質疑応答】400枚の先にある素顔と、広がる想像力

最後の質問タイムで、私は気になっていた疑問を澤田さんに投げかけました。<ID400>の撮影後、自身の髪を丸坊主にし、眉毛も全剃りした作品<SKIN HEAD>を発表した際の心境についてです。澤田さんからは「実は当初1000枚を目指していたけれど、400枚で一度終わりにした。でもそれだけでは物足りず、400回の変装を終えた後、もう『自分の素顔』を映すしかないと思った」という回答が返ってきました。実際に全てを剃ってみると嘘くさくなってしまったため、少し毛が伸びた状態で撮影したそうですが「あのタイミングで素顔を残しておいて本当に良かった」と語る表情が印象的でした。
また驚くべきことに、あれほど豊かな変身を繰り返す澤田さん自身は、普段は全く人間観察をしないといいます。無意識のうちに蓄積されたイメージが、制作を通じて自然と湧き出てくるのだそうです。
ワークショップの締めくくりには、ある参加者が書いたCさんのワークシートが紹介され、会場を沸かせました。「(Cさんは)国家安全情報局の直属スパイで、コードネームはK。表向きはバーを経営している。ある激しい雨の日、なおさん(Bさん)の父親の会社を取り調べていたKは、カウンター越しに、偶然来店したなおさんと短い会話を交わす…」。別々の写真として存在していた人物たちが、参加者の妄想の中で一つの緻密な推理小説のようにリンクしていく。これこそが、観る側によって無限に変容するアートの面白さそのものでした。

ワークショップを終えて:10年後の私がワークシートを書くなら
他の参加者のシートを覗き込む時間は、その人の人生や趣味の背景を旅するようなワクワク感に満ちていました。私がBさんに対して「大手企業の受付嬢」という設定を書いたのも、間違いなく自分自身の過去の社会人経験が地続きになっていたからです。もし、このワークシートを10年後の私が書いたとしたら、一体どんな人物を想像するのでしょうか。
これから先、さらに様々な経験を積み、人生の酸いも甘いも知った時、私のまなざしはもっと多様で、もっと優しいものに変わっているでしょうか。先の見えない不安に駆られることもありますが、このワークショップは、未来の自分の成長が少し楽しみになるような、不思議な希望を運んでくれました。

NPI在学生 深田


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