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加納典明「自分と競争せよ。表現であろうが思考であろうが、毎日、異常な集中を」|〈永光〉~時を刻んだクリエイターたち~ vol.1(後編)

■シリーズ〈永光〉~時を刻んだクリエイターたち~
時代を超えて残る足跡を世に残したクリエイターたち。彼らは世界の「いま」と「未来」に何を想い、後世の人間に何を伝えたいのでしょうか。アートやカルチャーを牽引した巨匠たちの言葉を刻む、インタビュー・シリーズ。今回のゲストは、【前編】に引き続き写真家・加納典明さんです

聞き手/編集 PicoN! 編集部 佐藤舜

クリエイターはテクノロジーにも目を光らせるべし

Q. 前編のお話を伺っていると、さまざまなことに感性を傾ける好奇心、 “非日常” への欲動が加納さんの原動力なのかもしれませんね?

加納)それで言えば昔、優秀な編集者で今も付き合いのある石川次郎に「草間彌生っていう、ニューヨークで飛ばしてる人がいるんだけど、会ってみるか?」と言われて。

会って話していたら草間彌生が「じゃあ、加納さんのために一日パフォーマンスしてあげましょう」と。彼女が連れていたパフォーマーたち――アンディ・ウォーホルのパフォーマーを兼ねてるのも何人かいたわけだ。

何のことかと思ったら、××パーティーなんだよ。なんじゃこれ、と思ったんだけど、俺を圧倒する体験ではあった。とにかく「撮るっきゃねえな」と言って撮っていったわけだけど。

※そのときの撮影が結実した写真集が『Fuck / 燃えるパーティー』(加納典明,1970年,実業之日本社)。若き日の草間彌生がセッティングしたパフォーマンスを撮影した写真集。男女が入り乱れる姿を赤外線フィルムを多用して写し出す。

加納)当時はベトナム戦争の最中でもあった。ベトコン(ベトナム側の民兵)が迷彩服を着ているので、ジャングルの空撮で、人間を色別できないといけないんだよ。そうやって開発されたのが、インフラレッド(赤外線)のカラーフィルム※。それでグリーンを撮ると真っ赤になったんだよな。

※インフラレッド(赤外線)のカラーフィルム……通常のカラーフィルムと異なり、光の青・緑・赤に加えて「赤外線」に反応する感色層があるフィルム。そのため肉眼とは異なる色彩に自然が写る。植物は赤外線だけを強く反射するため真っ赤に映り、赤外線~可視光をバランスよく反射する人間の肌は白っぽく写る。

『Fuck』は女性を派手に撮ったもので、唇が黄色に映っている。赤い口紅をつけているから、赤外線フィルムではそういう風に写る。肌も独特な色合いになったりしてね。その技術的な面でも有名になって、その後ほかの撮影にも使って評判になった。戦争のために作られたフィルムが、思わぬところで役に立ったわけだよな。

Q. その赤外線フィルムがあったことで、加納さんの感性が刺激され、新たなアートの可能性が開けた。

加納)現像してみて、俺はびっくりしたんだよ。あぁこういう技術なのか、面白い、と。そのときはコダックのフィルターだけじゃなくて、セロファンなんかもフィルターにしたんだよ。いろんな色の、濃い色のものを。そういうのをフィルターにして、どういう色が出るかを試していったりね。

アーティストは周りにどんな技術があるか目を光らせている必要があるよね。常に新しい自分、何かを欲している自分を意識し続けろよと思うよ。

Q. AIを始めテクノロジーがあふれる現代は、アーティストにとって恵まれた現代かもしれません。

加納)ただ、都合のいい時代にもなっているんだよ。

Q. テクノロジーがあるぶん、そこに甘えることもできてしまう。

加納)そう。「都合で生きるなよ、お前」って言いたいよ。都合だけで人生くらい十分やれてしまうから。それをやったって偽物だぜ、と言いたいよね。大事なのはオリジナルだよ。感性という名のオリジナルだ。

アートとテクノロジーで「脳という余分な能力」を楽しみ尽くしたい

Q. 「現実を書き換える装置」という意味では、いま挑戦されているAIやPhotoshopという手段も、70年代に使っていたその赤外線フィルムの延長線上にあると言えそうですね。

加納)うん、そうだな。だから写真を超えていけ、と俺は思う。「ポスト写真」「ポストフォトグラフィー」をやっぱりつくっていくべきだね。ひとつの科学技術としても、表現の方法論としても。そういう技術者と直接話してみるのもいいんじゃない? 富士フイルムの若い人でもいいし、コニカミノルタの人でもいい。要するに「こういうことができないか?」という発想の競争をやってみたらいいよ。そういう仲間づくりが必要だと思うな。

考える、発想する、感じる、感じさせる――人間にはそういう素晴らしい要素があるんだから。ただ動物のように、生きるために物を食っているだけじゃない。人間は脳という余分な力を持っている。アート、美術、写真……、いろいろな表現があるじゃない。どう発想していくか。どういうふうにしていくか。色々なことを考えられるじゃない。

それを余分なところで潰し合って生きている人間が多すぎる。だから、もっと脳というものをもう一度みんな考え直したらいい。研究し直したらいい。

Q. 「芸術は哲学の永遠なる道具である」というのはシェリングの言葉ですが、特に現代アートには、既存の世界観を考え直し、刷新していくという側面もあると思います。

加納)脳を取り換えられるようにできたら面白いと思うんだよ。

Q. 脳を取り換える?

加納)「今日は俺のAという脳を外して、Bという脳を入れてみるか」というように。月、火、水と、毎日違う脳で生きられたらどうなる? 昨日赤に見えていたものが、今日はグリーンに見えるとか。そういう全く違った日々があったら面白いな、と時々思うんだけどね。そういう意味で、脳の研究が一番大事だと思うよ俺は。脳科学者というのは脳を研究しているんだろうけど、そういう方向の関心を持っているのかどうか?

Q. たとえばゴッホの絵を観るとは「ゴッホの目でものを見る」こと。赤外線カメラを使うとは「赤外線カメラの目でものを見る」こと。ーーアートは疑似的に「脳みそを取り換える」行為なのかもしれませんね。

加納)俺は一応男という立場だけど、女性のハートや身体になったらどういう想像をするんだろうな? どういう感じ方をするんだろうな? と時々思うんだよ。それは本当になってみないとわからないわけだけど。女性と話はできるよ。だけどなりきることはできないじゃない。人間の限界はあるんだけど、もしそういうことができたら、と思うね。

自分と戦い、自分の信じるものをつくれ

Q. 近年は「コンプライアンス」という言葉に象徴されるように、エロティックな表現などに対して規制が厳しい時代になりました。これは人権意識の高まりである一方、ものをつくる側の立場からすると、表現の幅が狭まるという側面もあると思います。加納さんはどう思われていますか。

加納)表現の自由自体について云々すること自体がナンセンスだと俺は思う。

人間社会というものがあり、いろいろな人がいる以上「それはダメだぞお前」と言われればそうかもしれない。でも俺はものづくりの人間として、そんなことは知ったことではない。表現の自由は俺にとっての自由なんだと。それがなければ俺は何も生きていないのと同じだということだね。

さっき言った草間彌生のパーティー、俺が撮った『Fuck』という写真集に、黒人の大きな××を白人がくわえているアップの写真があるんだよ。でも撮っていた俺は別に嫌じゃなかったし、むしろ自然な情景だなと思いながら撮っていた。

自分に枠とかタガなんかはめないよ。「生きていない」のが一番つまらない。わざわざそこにタガをはめてどうするんだ。感じるものや魅力には全力で応えろ。呼吸しろ。それが生きた証拠だよ。結果として写真という具体的なものに残っていくわけだよな。写真であったり、絵画であったり。それでいいじゃないか。

それを全く受け取れない人は、受け取らないでいいよ。くだらない法律がそれを許さないのなら、それはそれで仕方ないよね。それが人間社会の限界というか――そういう限界や規制はどの時代にももちろんあるけれど、つくる側はそこを気にせず、自分の信じるものをつくっていくというところだね。

Q. 今は激動の時代だと思いますが、この時代だからこそ伝えたいことはありますか。

加納)やはり「みんな、自分と競争せよ」ということじゃない? 自分という実像をどう捉えているか検証しながら。日々そうだろうし、一年ごとでもそうだろうし、一仕事一仕事ごとにもそれが出てくるわけだから。そういう自己検証力というのはみんな持ったほうがいいんだよな。

反省しようということじゃないんだよ。「一歩前に行けよお前」って。想像力にしても観念にしても、一歩でも前に歩け、と思うね。

Q. 最後になりますが、これから写真を目指していく学生や、若手の写真家たちに対して、何かメッセージをお願いします。

加納)とにかく撮れ、ということだな。毎日、異常な集中の仕方をしなさい。表現であろうが、考え方であろうが、食事であろうが、宗教であろうが、異常な集中をしなさい。それを繰り返しなさい、と。結果とか、周りのことなんてどうでもいいから。集中して、それとどれだけ格闘したか、ということだね。

■加納典明 プロフィール
フォトグラファー/美術家
愛知県名古屋市出身。1942年2月生まれ。小説、DJ、レコード制作、映画・TV・CM出演、バイクチーム監督、ムツゴロウ王国移住など、写真家の枠にとらわれない数々のパフォーマンスを示す。近年は、自らの写真を使った絵画作品を発表するなど、活動の場を拡げている。
(AWARDS)
日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞、カレンダー展、ポーランドポスター展 等

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