きいろとあおはまざるとみどりになる③

前回のお話↓

『The Family of Man』

『The Family of Man』という写真集も、大学の図書館でみていた。ただそれがレオーニのデザインであったことに、まったく気づいていなかった。表紙の右端にレオのサインがはいっているにも関わらず。気づいたのはもうずっとあとのことで、1996年11月の終わりから97年のはじめに板橋区立美術館で開催された「レオ・レオーニ展」の展示でのことだった。展覧会のフライヤーのメインビジュアルには、「平行植物のフシギネ」が使われていた。『The Family of Man』の図録の表紙の書体、これは「センチュリー」ではないように思う。セリフがまっすぐでモダンローマン系の書体、もしかすると「ボドニ」ではないのかな?

Laurence King Publishing から出版された『Children’s Picturebooks』という本のなかで1950年代の絵本の代表作としてレオ・レオーニの『Little Blue and Little Yellow』が紹介されている。《広告の世界に嫌気がさしていた1959年、レオーニの最初の絵本『Little Blue and Little Yellow』(マクダウェル・ナボレンスキー社)が発表され、大きな影響を与えた》と。

「Unfinished Business」

レオーニがこの絵本を発表する前年の1958年、ベルギーのブリュッセルで戦後初の万国博覧会が開催された。アメリカは「金ピカの菓子箱」と揶揄されたドーナツ型の巨大なメインパビリオンとは別に「Unfinished Business」(未完成の仕事)と名づけられた小さなパビリオンも出展した。「Unfinished Business」とは何かというと、「人種差別(人間関係)」「住宅問題(都市の衰退)」「水の問題(土壌浸食)」、アメリカが抱える3つの問題について考え、解決策を提案するというものだった。そのパビリオンのアートディレクターとしてレオーニは関わった。そこで問題が起きる。パビリオンの出口に展示された写真(望まれる未来というタイトルで、人種や肌の色がちがう7人のこどもたちが手をとってまわっている写真)が物議を醸す。今でこそ何でもない微笑ましい写真だが、封建的な南部の議員が「これはアメリカの望まれる未来ではない」と騒ぎ、数日後に閉鎖されてしまう。

じつは『Little Blue and Little Yellow』のなかにその写真とそっくりのページがある。原著では、「and Ring-a-Ring O’s Roses!」、藤田圭雄訳の『あおくんときいろちゃん』のなかでは「ひらいた ひらいた なんのはな ひらいた」というページで、あおくんときいろちゃんが、オレンジやおうどいろのおともだちとまあるくなって踊っているページだ。露骨に「黒」や「白」の色をつかっているわけではないのだが。ベルギー万博の写真と『Little Blue and Little Yellow』のなかのカットの関係については、2020年10月から2021年1月にかけて板橋区立美術館で開催された「だれも知らないレオ・レオーニ」展の関連本(森泉文美・松岡希代子著、玄光社)に掲載されているので興味のあるひとはぜひ手にとって読んで欲しい。さらに詳しい内容については、2017年9月28日に、レオ・レオーニの孫娘、アニー・レオーニ氏が、出版・書店のニュースを扱う週刊誌「PUBLISHERS WEEKLY」に「Leo Lionni’s Unfinished Business」という記事を寄稿している。このサイトで読めるのでぜひ。

Leo Lionni’s Unfinished Business

 

文:守先正
装丁家。1962年兵庫県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科卒業。
花王、鈴木成一デザイン室を経て、‘96 年モリサキデザイン設立。
大学の先輩でもある鈴木成一氏にならい小説から実用書まで幅広くデザインする。
エリック・カール『ありえない!』偕成社、斉藤隆介、滝平二郎、アーサー・ビナード『he Booyoo Tree モチモチの木』などの絵本のデザインも手掛ける。

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