サイゼリヤの絵は何の絵?「店内に飾られている西洋絵画を学ぶ」
こんにちは、専門学校日本デザイナー学院東京校講師 原 広信(はらひろのぶ)です。
皆さんも何度が利用されていると思います、あのイタリア料理の人気チェーン店『サイゼリヤ』に飾られている絵画についてです。
どんな絵が店内に飾られているがご存知でしょうか?
どこかで見たことのあるものから、全く知らないものまでかなりバリエーションがあるんです。ここでいくつかピックアップして、ご紹介します。
サンドロ・ボッティチェッリ Sando Botticelli『ヴィーナスの誕生 / La nascita di Venere 』1486年 207×319cm テンペラ画 ウフィツィ美術館蔵 Galleria degli Uffizi / Firenze,イタリア
この絵は美術の教科書、参考書などで見たことあるという方も多いと思われます「ヴィーナスの誕生」というボッティチェッリの作品です。中央の大きな貝殻に立つのは “ヴィーナス” ですが、その右のヴィーナスに衣類の纏わせようとしているのが 女神“ホーラ”。左は西風の神 “ゼフィロス” と妖精 “クロリス”です。
ゼフィロスは西風の神であり、誕生したヴィーナスに息を吹きかけてキュプロス島へとヴィーナスを運ぶ役目を担っています。また、ゼフィロスに抱かれているのは妖精であるニンフのクロリスであり、一説によればこの後クロリスはゼフィロスの妻となり花の女神フローラになったと言われています。画面右側に描かれているのが、季節と時間の女神ホーラです。辿り着いた裸体のヴィーナスへ、身をくるむためのマントを持って駆けつけている姿が描かれています。ホーラは時間の女神であるため、季節の到来が規則正しく訪れるようにして植物の成長を見守る役割を担っています。彼女の衣装には植物をモチーフとした柄が細かく描かれています。この絵では、ヴィーナスが誕生してから西風に吹かれて島へ辿り着くまでの過程が一枚の画面で表現されています。時系列として左から右へ流れる構図になっており、画面を3分割し、それぞれに登場人物とその役割を描くことで時間の流れがわかるようになっています。
こうした神々への描写は精緻ですし、とても人間的に描かれています。ところが貝殻の周囲の海とその波の様子、そして樹木はリアルな表現とは違って、どこか形式的な描き方のように見えます。これは物語の内容を精密に描写しながらその背景は装飾として描くという画家の意図が見受けられると思います。
この作品はテンペラ画です。テンペラ画とは顔料など色の成分を卵や蝋(ロウ)といった粘り気のあるもので溶かして描かれたものです。
サンドロ・ボッティチェッリ Sando Botticelli『春 / Purimavera 』1482年頃 203×314cm テンペラ、板材 ウフィツィ美術館蔵 Galleria degli Uffizi / Firenze,イタリア
こちらの作品も同じ画家による名画です。この絵を見ていると、クラシック音楽のヴィヴァルディの「四季」のあの楽曲が聞こえてきそうです。何故なのでしょう…?CD(私の場合、レコード)ジャケットに使われていたのかもしれません。
さて、この作品を所蔵しているのはイタリアのフィレンチェにあるウフィッチ美術館(『ヴィーナスの誕生』と同じ)です。横幅3メートル以上とは大きな作品ですね。登場人物(…人ではない?)達は踊っていたり、何者かによって連れ去られるように見えたりといろんなことが描かれています。これらはイタリア、ローマの神話からの題材です。気になるは正面に立ちこちらに視線を向けている方と宙に浮く青っぽい方でしょうか?
詳しくは以下、ウフィツィ美術館のサイトに委ねます。
背景はオレンジと月桂樹の木立(こだち)です。まず、正面に立つのは”ヴィーナス”で愛と美の女神。そして右側の方は”ゼフィロス”とそちらを向いているのが”クロリス”に、その隣が”フローラ”です。
右端の”ゼフィロス”は西風の神で妖精”クロリス”に頬を膨らませて息を吹きかけ連れ去りました。そしてその左隣りに描かれた春の女神”フローラ”に変身します。
フローラは春の草花の衣装で描かれています。最も左の方は神々の使者”マーキュリー”で杖で雲に触れています。
描かれている方々は『ヴィーナスの誕生』と重なりますね。この絵の構成の多くはまだ今も研究中だそうです。中央上にいる目隠しキューピッドは手を繋ぎ合って優雅に舞う三美神の誰を狙って矢を放つのでしょう?
↓ ジャケット探したら、ありました!
さて、こちらの作品は作者が変わります。
フラ・アンジェリコ Fra Angelico『受胎告知 / Annunciazione 』1440年 230×321cm フレスコ画、壁画 サン・マルコ美術館蔵 Museo Nazionale di SanMarco / Firenze,イタリア
絵の題材の「受胎告知」とは、『神の使者たる大天使ガブリエルが処女マリアにキリストの懐妊を告げ知らせる物語…』でキリスト教においてはたいへん重要な場面です。
※下線部引用:コトバンク
画面左手の方が大天使ガブリエル、右手の座っておられる方が処女マリアですね。この絵のほぼ中央付近に消失点(収束点)を一つ設定した遠近図法、「一点透視図法」が用いられ、台形に描かれた床が石柱で仕切られた面積の奥行きを表現しています。褐色の石造の建物と石柱の規則的な並びは遠近感と静寂感をもたらしています。複数の石柱上部と建物の壁を結ぶ黒っぽい線もこの重要な「間」の空間性を表します。また奥の壁面にある四角い窓からほんのわずか背景の森が見えています。それゆえに一層の奥行き感があります。また一点透視図法の消失点もその窓に設定されています。
(もし可能なら、床の縁の斜線や円柱の間を結ぶ黒っぽい斜線に定規を当ててみてください!確認ができます)
次の絵の場面はどこかで見かけたような…
ドメニコ・ギルランダイオ Domenico Ghirlandaio『最後の晩餐 / Ultima Cena(伊) 』1480年頃 400×810cm フレスコ画 オンニッサンティ教会所蔵 Museo del Cenacolo di Ognissanti / Firenze,イタリア
最後の晩餐といえば、レオナルド・ダ・ヴィンチ作のがたいへん有名ですが、イエス・キリストが処刑前夜での12人の使徒との食事というこの場面はキリスト教において重要なので、これまでいろんな画家が描いています。ドメニコ・ギルランダイオはボッティチェッリと同時期のルネサンス(文芸復興)期の画家として活躍しています。
こちらの作品も縦幅4mに横幅8m以上という大作で、フレスコ画という技法で描かれていて、オンニッサンティ教会の食堂にあります。ほぼ壁画ですね。
先に紹介したフラ・アンジェリコの『受胎告知』に似た点があります。こちらも一点透視図法が用いられ描かれています。天井の左右から円弧を描くラインでアーチ状に降りてくる白い梁(はり)の形状(下向きの矢印の形に見える)の先端あたりに消失点が設けられています。こそにはちょうどイエスの姿も描かれていて、教会の建物の構造も利用した大掛かりな視点誘導の構図となっています。
この作品もフラ・アンジェリコの『受胎告知』も「フレスコ画」という方法で描かれていますが、これはまだ油彩が確立する前の画法の一つで、壁に漆喰(しっくい)を塗り、乾くまでに石灰水で溶いた顔料で描く方法です。
※下線部参考:This is media
最後にこれまで見てきたイタリアの古典画とはちょっと趣が違う作品も飾られているようで紹介します。この作品は時代が15世紀から19世紀に移ります。
ウィリアム・アドルフ・ブグロー William Adolphe Bouguereau『アムールとプシュケー、子供たち / L’Amour et Psyché, enfants 』1890年完成 119.5×71cm 油彩、カンヴァス 個人蔵 private collection
ウィリアム・アドルフ・ブグローというフランスの画家が描いた作品で、活躍した時代も19世紀(1800年代)後半です。この作品は1890年に完成したもので、カンヴァスに油絵具という今でも一般的な写実的な西洋絵画の組み合わせです。描き方も優雅であり、熟達した油彩画の色彩の美しさがあります。
左側の雲に片足で立っている幼児は天使「アムール」。背中に羽根がありますね。もう一方が「プシュケー (王女の名) 」でしょう。羽根はこちらは蝶の羽になっています。この絵の題材は古代ギリシャ、ローマ神話からのようです。
雲も背景も淡い青系とグレーの色調で描かれて落ち着いた雰囲気です。またその基調色の中の肌色が艶やかで、温かみが感じられます。優雅な雰囲気に浸れる作品ですね。店内には上半身の部分の絵が額装されて飾られているようです。
さて、限られた点数でしたが、ご紹介してきましたサイゼリヤの飾られた作品たち。今度休憩や食事に立ち寄る際には店内を眺めて、こうした「絵画」をしばらく鑑賞してみてはいかがでしょうか。
トップ画像引用:WIKIMEDIA COMONS、Galleria degli Uffizi HP、Galleria degli Uffizi HP
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