• HOME
  • ブログ
  • アート
  • 「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑮ ― マリー・ローランサン『二人の少女』について

「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑮ ― マリー・ローランサン『二人の少女』について

マリー・ローランサン『二人の少女』について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

皆さんはマリー・ローランサンという画家の名前をご存知でしょうか?20世紀前半に活躍した今からちょうど100年前頃のフランスの女性画家の名前です。この画家の作品は日本でも大変人気があり、日本国内の様々な美術館にコレクションされています。なので「見たことあるかも」という方もいらっしゃると思います。このコラムでは海外の美術館が所蔵する作品も交えて見ていきましょう。

まずはこちらの作品から。

マリー・ローランサン Marie Laurencin『 スペインのダンサー / Danseuses espagnoles 』1920-21年 163.8 × 108.8cm 油彩、カンヴァス オランジェリー美術館蔵 Musée de l’Orangerie / Paris,フランス 画像引用元:Musée de l’Orangerie HP

この作品が所蔵されているのはオランジェリー美術館。パリを流れるセーヌ川沿いに建っており、セザンヌ・モネ・シスレー・ピサロなど印象派の作品を中心に収蔵している美術館(地下に展示のモネ『睡蓮』が圧巻)です。
さて、この作品はローランサンの独特なグレー(灰色)の色調が印象的です。ダンサーたちの姿の後には馬や犬のような動物が重なり合うように描かれています。この画面はキュビスム(Cubisme)的な構成の傾向が感じられて、当時の先進的な絵画からの影響が見受けられます。

では次の作品ですが、自画像です。

マリー・ローランサン Marie Laurencin『 帽子をかぶった自画像 / Autoportrait au chapeau 』1927年頃 41.4 × 33.5cm 油彩、カンヴァス マリー・ローランサン美術館蔵 / 日本 閉館 画像引用元:マリー・ローランサン美術館 HP

この自画像はほんの少し色味のあるグレーで全体が描かれ、ややうつむき加減な眼差しでの作者自身の表情です。姿をやや左に寄せて描いて空間をもたせています。やや暗い背景から口元をやや開いて、ほの白く浮かんだ顔に透明感を湛(たた)えています。縦約40センチと横幅約30センチの小振りなサイズのカンヴァスに描かれています。
この作品を収蔵している日本の美術館が閉館したのは残念ですが、貸し出しなどは行われるようです。

マリー・ローランサン Marie Laurencin『 シャネル嬢の肖像 / Portrait de Mademoiselle Chanel 』1923年 109.3 × 90cm 油彩、カンヴァス オランジェリー美術館蔵 非展示品 Musée de l’Orangerie / Paris,フランス 画像引用元:Musée de l’Orangerie HP

こちら、最初に登場した作品『スペインのダンサー』にも共通した色調だと気付かれると思います。グレー(灰色)の濃淡を基調として淡い緑や青系、そしてピンク系等で構成されています。所蔵するオランジェリー美術館のサイトの解説では、”ローランサンは Sergei Diaghilev’s Ballets Russes(セルゲイ・ディアギレフのバレエ リュス)でバレエ衣装とセットをデザインし、同時期に、Coco Chanel(ココ・シャネル)は同社の Le Train Bleu [The Blue Train] operetta (オペレッタ「ル・トレイン・ブルー」)の衣装の制作をしていて、ローランサンに肖像画を依頼した”という記述されています。ここで引用しています所蔵美術館サイトのココ・シャネルさんにまつわる解説文が面白いのでぜひご一読ください。
シャネルさんの表情、アンニュイですね。
※下線部引用元Musée de l’Orangerie HP

この肖像画作品を見ていると、ふと思い浮かんだのがマルク・シャガール(Marc Chagall)という画家の作品です。ベラルーシ生まれのシャガール(1985年)はローランサン(1883年生れ)とほぼ同じ頃に生まれて、パリで活躍したアーティストです。彼の描いた『グリーンバイオリニスト』という作品があるのですが、描かれているモチーフが全く異なっていますので、筆者の勝手な連想です。いかがでしょう、アンニュイな表情が何とも…

■参考作品

マルク・シャガール Marc Chagall 『グリーン ヴァイオリニスト / Green Violinist 』1923-24年 197.5×108.6cm 油彩、カンヴァス ソロモン・R・グッゲンハイム美術館蔵 Solomon R.Guggenheim Museum / NY,米国 画像引用元:グッゲンハイム美術館HP

次は油彩画ではない作品です。

マリー・ローランサン Marie Laurencin『 グルゴー男爵夫人の肖像 / Portrait de la Baronne Gourgaud 』1923年 49 × 32.5cm リトグラフ(石版画) ニューヨーク近代美術館蔵 非展示 MoMA The Museum of Modern Art / NY,米国 画像引用元:ニューヨーク近代美術館 HP

この作品は一見するとデッサンか下描きのようですが、リトグラフ(Lithogragh)『石版画』と呼ばれる版画です。リトグラフは平板な石の表面を利用して刷るもので、木版よりも耐久性と精緻性に優れた技法です。ご覧のように、黒の濃淡だけのモノクローム表現ですが、夫人の優雅な雰囲気が伝わってきますね。
収蔵するMoMAのHPサイトのクレジットでは80版が刷られたとのことです。

さて、いよいよ今回の作品です。

マリー・ローランサン Marie Laurencin『 二人の少女 / Les deux filles 』1923年  油彩、カンヴァス 公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館蔵 京橋,東京 画像引用元:アーティゾン美術館 HP

グレー系の基調(ベーストーン)にピンク色とブルーが淡い色調ながらコントラストを織りなしています。スカーフを巻いた女性の帽子を頂点に右へ背中のシルエット、そして左に本へのラインで三角形が形成され安定的な構図となっています。背景がほの明るい中二人が心を寄せ合っている仕草が印象的な作品です。
よく見ると所々にカンヴァス地が透けて見えている点が興味をそそられてしまいます。

この作品を含めて、マリー・ローランサンの作品が観覧できる展覧会がこちら 『マリー・ローランサン ― 時代をうつす眼』展。東京中央区の京橋にあるアーティゾン美術館で開かれています。

2024年3月3日(日)まで開催のこの展覧会。限られた色彩に豊かな詩情を織りなすローランサン作品に出逢いに、東京・京橋に出かけてみてはいかがでしょうか!

展覧会情報

『マリー・ローランサン ― 時代をうつす眼』展

会 期:2023年12月9日(土)~2024年3月3日(日)
場 所:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館(東京・新橋)
公式HP:https://www.artizon.museum/exhibition_sp/laurencin/

 


↓PicoN!アプリインストールはこちら

関連記事