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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑰ ― カール・アンドレ『上昇』について

カール・アンドレ『上昇』について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

皆さんは『ミニマル・アート』という言葉をご存知でしょうか?
この『ミニマル(minimal)』という言葉は現代音楽にも、建築にもそして最近ではインテリアにも用いられているので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
意味は「最小限の」ということで、作品から装飾的な要素を極限まで排除するアート表現のことを指しています。

今回ご紹介する作家はカール・アンドレ(Carl Andre)氏で、世界的に著名なミニマル・アートのアーチストです。
この作家は単純な形状・素材の個体複数を並べ配置するという実にシンプルな作品を発表し続けました。

1935年アメリカ生まれの彼は当初は木彫(木製素材の彫刻)的な作品を制作していましたが、彫る行為から彫られる対象物そのものを並べるインスタレーション作品へと変貌します。
また自身の自作する詩も(作品に付与する場合もある)発表しました。
彼も前回ご紹介したコンスタンティン・ブランクーシに影響を受けた作家の一人です。

【カール・アンドレ氏は2024年の1月24日に死去(88歳)されています】

こちらの作品をご覧ください。

【カール・アンドレ Carl Andre『 28個の赤レンガの線 1968 / Twenty-Eight Red Brick Line, 1968 』1968年 7.9 x 19.7 x 5.7 cm 28個の連続した赤レンガ ポーラ クーパー ギャラリー蔵 PAULA COOPER GALLERY / NY,米国】 ※画像引用元:Paula Cooper Gallery HP

この作品は赤レンガを28個を繋げるように床に一列に並べてあります。写真をよく見ると列の先端は画廊の白い壁面に接しているようにも見えますね。彼は作品となる材料を発表する空間に持ち込んで並べていきます。そこで空間の状況を考慮して素材を配置(作品化)していきます。たいへん単純な作品です。
私(筆者)の感想ですが、床のグレー(灰色)と赤レンガの色合いが良い感じだなぁと感じ入ってしまいます。

【カール・アンドレ Carl Andre『 フォア・リバー・クレーン 1993 / Fore River Crane, 1993 』1993年 91.4 x 91.4 x 91.4 cm 西洋赤杉5本 ポーラ クーパー ギャラリー蔵 PAULA COOPER GALLERY / NY,米国】 ※画像引用元:Paula Cooper Gallery HP

5本とも同じ寸法の木材(西洋赤杉)を塊として組み上げたこの作品。収蔵するポーラ クーパー ギャラリーのHPでは、
「彼はレンガ、木材、金属や石など、加工されていない要素を、その物質自体と周囲の空間によって決定される形状に配置する… – 抜粋 – 」と解説しています。(He produces sculptures of rigorous simplicity by arranging unmanipulated found elements―such as bricks, lumber, and metal or stone tiles―into forms determined by the units of matter themselves and their surrounding spaces.)
引用元:Paula Cooper Gallery HP

この木材は何らかの目的で業者などが加工したものとしてあったのを、彼は展示する環境状況を吟味して、その物質を組み立てるというより配置することで作品化する行為ということです。彼はすでに何かのための材料を見つけ出して、それを展示空間に運び入れ、配置することだけの行為と言い換えられます。こうした彼の作品にする実にシンプルな行為こそが、「ミニマル(minimal) 最小限の」アートたる所以なのでしょう。

では次の作品です。

【カール・アンドレ Carl Andre『 Equivalent VIII ( 相当 8 ) / Equivalent VIII 』1966年 13 cm × 69 cm × 229 cm 耐火レンガ120個 テート・ギャラリー蔵 Tate Gallery / London, 英国】 ※画像引用元:Tate Gallery HP

こちらはイギリス、ロンドンの美術館テート・ギャラリーに収蔵されている作品です。(写真の位置から見て)長方形の形に横に6個、縦に10個の耐火レンガを敷き詰めて、それを2段重ねに積みあげていますね。この作品は120個の耐火レンガをいろんな展示場所で並べ方を変えて展示するシリーズ作品です。展示する環境条件に応じて並べ方(作品の姿)を変えているのです。『Equivalent』は材料と個数も同じで並べ方だけ変える。
面白いのはこれを彫刻作品とすると「彫刻」という概念は確固たるもののようだったのが、実はよくわからなくなります。「彫刻として見る」なんてことが意味をなさなくなります。カール・アンドレの作品は台座の上ではなく、床に直接展示されます。私はこの作品の(この耐火レンガの)色合いはテートギャラリーの床面にとても調和を感じてしまいます。私たちは彼の作品を見るときに同時にその環境も見ていることに気付かされます。

【カール・アンドレ Carl Andre『 フォール / Fall 』1966年 1.8 x 0.7 x 1.8 m 熱間圧延鋼材 グッゲンハイム美術館蔵 Solomon R.Guggenheim Museum / NY, 米国】 ※画像引用元:Solomon R.Guggenheim Museum HP

ニューヨークのグッゲンハイム美術館に所蔵のこの作品は、錆を纏わせた黒い鋼材を1列に展示壁面と床に密着するように並べてあり存在感がありますね。おそらく3.6mの鋼材を真ん中で直角に曲げられた素材だろうと思われます。数えると21枚が敷き詰められていますので、横幅は37.8mになりますね。ほぼ38mにずらりと並んだ作品の景観は、実際にその場で目の当たりにしないと感じ得ない何かがありそうな気がします。
この作品の題名は『 Fall 』ですが、英語の直訳では「秋」ですよね。カール・アンドレは詩人でもあるのでこの『 Fall 』の持つ言葉の意味、ニュアンスを私は計りかねていますので、敢えてクレジットのタイトルは「フォール」というカタカナ表記を選びました。

【カール・アンドレ Carl Andre『 144 ブリキ 正方形 / 144 Tin Square 』1975年 0,96 x 366 x 366 cm ブリキ材 ポンピドゥセンター蔵 Centre Pompidou / Paris,フランス】 ※画像引用元:Centre Pompidou HP

144枚の同じブリキの板で正方形に敷き詰めれらた作品です。縦横に12枚ずつ並んでいるこの板は収蔵美術館HPのクレジットでは厚さが1cm弱あるようです。この画像をよく見てください。作品の下(展示室の床)にも正方形(であろう)床材が敷いてありますね。この環境に共鳴するかのように、作品が存在しています。作品を展示するために置くと当時に、「置かれる環境と作品が共鳴する」ことにも作家の意識があると思います。

さて、いよいよ今回の作品です。

【カール・アンドレ Carl Andre『 上昇 / Rise, 1968 』2011年 185.4 x 185.4 x 1493.1 cm 直角の鉄延鋼板21枚 ポーラ クーパー ギャラリー蔵 PAULA COOPER GALLERY / NY,米国】 ※画像引用元:DIC川村記念美術館HP

この作品はニューヨークにある、ポーラクーパーギャラリーに所蔵されている長さが15m近くもある大きなものです。
そして画像は「日本の美術館において初めての個展※」千葉県佐倉市にありますDIC川村記念美術館で開催されている展覧会HPからの引用です。
(※「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」HPより引用)
現在、カール・アンドレの展覧会が開かれています(2024年6月30日まで)。私もこの作品を見るために自宅から家族を伴って車で美術館へ出かけました。

実はこの作品「上昇」と壁面とのスペースを歩いて渡ることができます。展示室に入る前に美術館の方に資料をいただけて、作品上を歩いて良い(歩いてはいけない作品)について簡単な説明を受けての見学でした。この鉄延鋼板は近寄ると相当な重量感を肌で感じます。しかしそばから離れて展示室の反対側の壁面まで離れて見ると錆び付いた鋼板の壁の様でいて、タイトルの「Rise / 上昇」という意味合いを感じることができました。(※作品の撮影は不可)
また、彼の詩に関する作品も展示されていて、面白い時間を過ごしました。

この「Rise / 上昇」を含めて、カール・アンドレの作品が観覧できる展覧会がこちら 『カール・アンドレ 彫刻と詩、その間』展。
千葉県、佐倉市にあるDIC川村記念美術館で開かれています。館内のお茶室での和菓子と抹茶のセットがおすすめです!
東京駅からの高速バス(有料)や京成佐倉駅・JR佐倉駅からの無料送迎バスも運行しています。

展覧会情報

『カール・アンドレ 彫刻と詩、その間』展

会 期:2024年3月9日(土)~ 6月30日(日)
場 所:DIC川村記念美術館(千葉県・佐倉市)
公式HP:https://kawamura-museum.dic.co.jp/art/exhibition/

 


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