27年ぶりの新作公開「楳図かずお大美術展」
「楳図かずお大美術展」が3月25日(金)まで六本木・東京シティビューにて開催されている。
『おろち』『まことちゃん』『漂流教室』など多数の代表作で知られる楳図かずお。衝撃的な設定や人類の根源的な欲求に対する問題提起、一度見たら忘れられない画力。ホラー・コメディ・SFといった幅広い作風に圧倒的な世界観。唯一無二の漫画家として、多くのクリエイターに影響を与え続けている楳図氏の芸術性にフォーカスした本展の魅力を紹介したい。
人類の経済活動が地球環境に影響を与える人新世時代の到来や、人工培養技術の発展、AIが人間より賢くなるシンギュラリティの予兆…本展は、楳図作品の中でも特に先見性に満ちた『わたしは真悟』『漂流教室』『14歳』の三作品に焦点を当てるとともに、27年ぶりの新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボットシンゴ美術館』を初公開している。
みどころ①: 現代アーティスト3組とのコラボレーション
『わたしは真悟』『ZOKU-SHINGO 小さなロボットシンゴ美術館(新作)』『14歳』それぞれの作品に対して、エキソニモ、冨安由真、鴻池朋子3組がインスタレーションを展示。 代表して『わたしは真悟』からエキソニモが制作した≪回想回路≫について紹介する。
まず、『わたしは真悟』についてあらすじを振り返りたい。数々の傑作を生み出してきた楳図作品の中でも、著者最高傑作との呼び声が高い作品だ。
主人公は小学6年生のさとる。父親が働く町工場に産業ロボットがやってくることを知り、得体の知れないロボットに惹かれ、取り憑かれていく。工場見学で憧れのロボットについに対面した日に、さとるは同い年の少女まりんと運命的な出会いを果たす。
町工場でロボットは「モンロー」と名付けられており、モンローに様々な学習をさせながらさとるとまりんの仲は徐々に深まっていく。しかし、互いの家族環境により、二人の恋は引き裂かれそうになる。大人へと成長することを恐れたさとるとまりん。二人は結婚を望み、モンローが指し示した東京タワーの頂上へと向かう。東京タワーから救助ヘリコプターに飛び移った瞬間、モンローに自我が芽生える…
物事を教え、意識を与えてくれたさとるとまりんを両親としたモンローは、二人の頭文字から自らを「真悟」と名付ける。さとるとまりんは離れ離れになってしまうが、さとるが伝えられなかった愛の言葉をまりんに伝えようという一心で真悟(モンロー)は自らの思考を成長させていく。そして、自分自身の存在を確かめる旅にも出るのだった。
「真悟の思念が今もインターネットの中に生きていたら」という着想から、今回の展示が生まれたという。真悟の存在を想起させるさとるやまりんの映像が映し出されるモニターや大量のケーブルが象徴的だ。
物語で重要なシーンとなった東京タワーを背景に、このモニュメントを見ることが出来る。筆者は日中に鑑賞したが、昼と夜で全く異なる雰囲気となるはずだ。
物語もさることながら、『わたしは真悟』で非常に印象的なのが各話の扉絵だ。本展示ではそこにも着目しており、扉絵が壁面にランダムに表示される演出がある。
「奇跡は 誰にでも 一度おきる だが おきたことには 誰も気がつかない」というキャプション付きで男女が街を駆け回る扉絵で始まる第一話。そこから最終話まで、物語とは直接関係しない都会や街を舞台にした男女二人のイラストで徹底されている。昭和時代の近代的な場所もあれば、謎めいた状況もある。モノクロで漫画1Pのサイズでも見入ってしまう劇的な構図に作品性の高さが窺える。
みどころ②: 新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボットシンゴ美術館』
27年ぶりに公開される新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボットシンゴ美術館』。『わたしは真悟』の続編であり、並行世界が描かれている。
制作に4年の歳月をかけた本作は、原画101点による連作。その 一点一点はコマ割りがなく、タイトルと絵柄とキャプションで構成されている。漫画として読むだけでなく単体の絵画作品としても楽しめる、ユニークな試みがなされている。
内容には触れないが、小さな絵に込められた強い情念と迫力に、さとるとまりん、そして真悟の純粋さを本作でも存分に感じとることができる。美しく、ときに苛烈な運命を背負う子どもたちの突き抜けた純粋さによる行動。それは狂気でもあり、その狂気はコメディとも紙一重である。
人間が持つ心の力の強さによる表現を更新し続けている楳図かずおの本作を、 是非生で体感してほしい。
文・写真:ライター中尾
展示会概要
楳図かずお大美術展
会 期:2022年1月28日(金)~3月25日(金)
開館時間:10:00~22:00(入場は21:30まで)
会 場:東京シティビュー (東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
主 催:東京シティビュー、楳図かずお大美術展製作委員会
大阪巡回展は2022年9月17日(金)~11月20日(日)あべのハルカス美術館にて開催。
詳細は公式サイトにて
https://umezz-art.jp/index.html