「でも だから」NDS校長 野口朝夫

環境原論で学ぶことに「自然環境」という分野があった。太陽はどのように登り沈むか、これを知ることで建物の影がどうできるかが分かる。夏の日差しはどの角度で部屋に差し込むのか、さらに熱は壁をどう伝わるか、音は、空気は、と広がる。触れたよう、昨今のエネルギーを考えると、当時は身を入れて学ばなかったこの原論での諸々を意識しないでは設計ができなくなってきている。建物の向きをどうするか、窓の大きさをどう決めるか、太陽の位置、角度で基本的に決まってくる。屋根はエネルギー効率を踏まえた形にせざるを得なくなる。建設地にもよるが外観デザインは、軒や庇がないつるんとしたものではなく、それぞれ外壁から伸ばすことで、エネルギー効率を上げられる。断熱材を考えると、力強さを表現できる打ち放しコンクリートは難しくなる。このように、一部のデザイナーしか気にしていなかったことが、これからのデザイン決定の最大の要素と変わってきている感じがある。

バウハウスの授業形態図:『バウハウス 1919-1933』[図録]より引用

これまで空間デザインを学ぶことは、「格好よい」「心地が良い」などのキーワードで回答を探すステップを習得するものであった。この価値観に大転換が起きつつあり、今後は、「環境に害を与えない」「資源を消費しない」というキーワードを必ず入れざるをえない。この転換は空間デザインに限ることではなく、グラフィックデザインでもビジュアルデザインでも起きているのではないか。とするなら、デザイン教育においても、環境を害さないデザイン、地球を食い尽くさないデザインの意識をベースとする、これまでとは異なる教育論の組み立てが必要となる。この答えは未だ見えていないが、直ぐに回答が求められるようになるに違いない。
地道であっても、デザインとは何のための行為かという根本的な問いを常に意識し、学生に問いかけ、論理的な思考を継続することで答えを浮かび上がらせる自覚的な営みが必要とされている。

文・野口 朝夫

野口 朝夫
日本デザイナー学院校長。一級建築士。
野口朝夫建築設計所代表として、住空間を中心とする各種建築設計監理を手がけている。日本デザイナー学院では、住空間・フィールドワークなどを30年にわたり担当。現在 校長。国際NGO事務局長として40年間にわたり、ラオスでの読書推進活動に携わっている。

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