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世界に誇る日本の特撮を作った男。〈生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展〉
庵野秀明(「シン・ゴジラ」)、樋口真嗣(「シン・ウルトラマン」)ら、現代日本における世界に誇れる映像作品を作り上げるクリエイターたちに多大な影響を与えた作品群の特撮美術監督〈井上泰幸〉の業績が一堂に会する展覧会が東京都現代美術館で開催されています。(文中一部敬称略)
会期:2022年3月19日(土)ー6月19日(日)
休館日:月曜日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
今回、PicoN!の取材を快く受け入れていただけましたので、井上泰幸展のレポートをさせていただきます。
まずは井上氏の写真と、井上氏がデザインしたゴジラシリーズの公害怪獣「ヘドラ」の初期デザイン画が出迎えてくれます。
井上氏が手に持つのは「緯度0大作戦(1969年)」の万能潜水艦アルファ号の模型。
展示室を進むとまず、井上氏が特撮と出会う前の生い立ちや家具の設計をしていた時代の貴重な資料が並びます。
井上氏は1922年、福岡県古賀市出身。
佐世保海兵軍に入隊するが揚子江上で左膝下を失い、戦後は家具の勉強をしその後上京。
日本大学藝術学部美術科に入学し、バウハウスに学んだ山脇巌(やまわきいわお)氏に師事し、デザイン・設計に従事する。
山脇氏から「世の中にないものを作る」「網膜透視図法」など多くのことを学んだと、展示にもあるインタビュー映像で語っている。
その後1954年に円谷英二監督の下で「ゴジラ(1954)」の特撮美術助手として参加し、「空の大怪獣ラドン(1956)」「地球防衛軍(1957)」「モスラ(1961)」「ウルトラQ(1966)」など数多くの作品制作に携わり、日本中の大人から子供までを熱狂させる特撮作品の美術を作り上げ、2012年2月19日に亡くなる。享年89歳。
井上氏の仕事は「細部」への徹底的なこだわりを見せ、円谷英二監督が自由に映像の発想ができる全方位的なミニチュアセットを作り円谷監督との厚い信頼関係を築いた。
井上氏はインタビュー映像で「ミニチュアじゃない、本物をつくる」「小さいからといって質を落とさない。妥協しない」と語っており、当時一緒に制作したスタッフは井上氏のもと鍛えられたと熱く語られていました。
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「ゴジラ(1954)」の貴重な資料/井上のロケハンスケッチ
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「空の大怪獣ラドン(1956年)」福岡のロケハンスケッチ/上にある2枚の写真は右側が実際の福岡ロケハンの写真、左側がミニチュアセットの写真。
キャプションを読んだとき、驚きと同時に感動を感じました。実際の風景写真とミニチュアセットの写真は説明されなければ気がつかないほど忠実に作りこまれています。
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「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘(1966年)」/絵コンテ・エビラ図面
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「ゴジラ対ヘドラ(1971年)」/ヘドラ デザイン画
実際に映画の中で登場するヘドラとはデザインが若干違う初期のデザイン画。ファンからすると垂涎の展示作品。
制作現場を映した写真や映像は当時の熱量が伝わる貴重な資料。
ぜひ展示会場でご覧いただきたい。
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「ガメラ2 レギオン襲来(1996年)」/ヘリ・兵器の図面、デザイン画
「ガメラ2 レギオン襲来」は1996年公開の作品。
井上氏は美術監督を担当。当時井上氏は74歳。
特撮映画にかける情熱が伝わってくる。
三池敏夫氏が再現した「空の大怪獣ラドン」福岡の街の巨大ミニチュアセット
展示の最後には迫力の巨大なミニチュアセットが展示されています。このミニチュアセットは特撮美術監督〈三池敏夫〉氏によって再現されたものです。
〈三池敏夫氏コメント 一部抜粋〉
九州を舞台にした「空の大怪獣ラドン」は井上さんの代表作のひとつです。(中略)福岡市街の看板類の再現度も尋常ではありません。(中略)「ラドン」の名場面のひとつに、衝撃波による福岡市街地の破壊シーンがあります。軽い瓦を作り、1枚1枚屋根に載せました。風で屋根が飛べば内部が見えるので梁や柱も作りこんでいます。
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岩田屋再現ミニチュアセット(監修:三池敏夫、制作:マーブリングファインアーツ、背景画:島倉二千六)
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ラドンが降り立つ西鉄のビル岩田屋、窓の中のカーテン、屋上の遊具まで見ることができる
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西鉄電車、鉄骨、屋根瓦、現実の風景を俯瞰で見ているかのような精密さ
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作りこまれた看板類、福岡ロケハン時にあったビルの足場までもが作られていた
今回、記事内で紹介できた作品・資料はごく一部で、展示室には膨大な数のデザイン画、図面、模型、当時の貴重な映像資料などが展示されています。
井上氏の功績が無ければ、現代の世界に誇る日本の特撮・怪獣文化は違う結末になっていたかもしれません。
現代の最前線のクリエイターにシゲキを与えた井上泰幸氏の濃厚なクリエイティビティをぜひ東京都現代美術館でご覧ください。
文:PicoN!編集部 横山