デザインの宿る街、代官山。ヒルサイドテラスに学ぶ “豊かさ” の本質
7月23日(日)、専門学校日本デザイナー学院で開催された「建築家・デザイナーと行く! 代官山インテリア探訪ツアー」。代官山を散歩しながら、当学院の校長で一級建築士の野口朝夫先生による解説を聞き、街に立ち並ぶ建物のデザインやその歴史について学べるイベントでした。今回は、野口先生によるイベント後記を公開します。
この代官山という街には、いったいどんなバックグラウンドが、そしてどんな魅力や特徴があるのでしょうか? 建築学やインテリアデザインの観点から語っていただきました。
“寂れた街” 代官山を変えた。槇文彦作「ヒルサイドテラス」
代官山に、授業で学生を連れてよく行きます。この旧山手通りを歩くと、夏はクスやケヤキの緑が日差しを遮り、冬は冬で落ち葉が歩道を掃き、いつ行っても心地よく、豊かさをくれます。この道を通るようになって50年以上が経ちますが、もともとは幹線から外れ、道路幅が広い割に車も少なく、寂れた大変静かな通りでした。
駅近くの同潤会アパート以外目立つものがなかった代官山でしたが、69年に旧山手通り沿いにヒルサイドテラスが出来たころから、街並みが変わります。
当時気鋭の槇文彦さんのデザインによる、低く抑えられ白く塗られたヒルサイドテラス(A棟)は、建物自体のプロポーションの上品さ美しさに加え、歩道とは別に誰もが歩けるデッキを設ける手法、そして1階にあった青田美容室のガラス壁に貼られたパターン、サインなど(これらは粟津潔さんが手がけた記憶)、学生だった私には本当にモダンで新しい世界を見せてくれていました。
それ以降、建物は徐々に追加され、街は広がってきましたが、今でも変わらず魅力を維持し、土日など駅から遠いのにもかかわらず、国外の観光客を含む多くの方が散策しています。
この人を寄せ付ける街の魅力はデザインの力です。旧山手通りを挟み、槇さんが20年以上にわたりデザインした建物群が並んでいることによる、安定感です(同一の不動産屋さんが、彼を信頼しデザインを任せてきたということ、希有で貴重です)。
自然を活かすデザインポリシーが生んだ、美しい街並み
さらに、そのデザインポリシーにおいて、現場の自然を極力残す方向性が、街並みに落ち着きを与えています。
もともとそこの地にあったケヤキなどの大木を取り囲むように配置された建物のレイアウト。また、その間を結ぶ通路を開放空間とすることでポケットを創りだし、だれでもが歩き入っていける工夫。この開放性が、歩く楽しさ、魅力を生んでいると感じます。
有難いことに10年ほど前、ヒルサイドテラスに隣接する社宅が、代官山蔦屋やレストランに再開発された折り、それまでの街づくりコンセプトを踏襲してくれました。建物を大きくせず3棟にわけ、元ある樹木を残し、敷地の高低差を生かした建物配置。デザイン傾向は全く違いますが、ヒルサイドテラスとの連続性が担保されて、さらに暖かく魅力的な街並みが広がりました。
日本には、伝統的なもの以外、どうも魅力的な街並みが少ないと感じる中、この代官山の豊かな空間は、近代モダニズムの影響、成果を生かした特別な例です。これから先、隣接地の開発時に、同じコンセプトを尊重し引き継いでくれると良いのですが、どうでしょうか。
ということで、学生たちには、自らデザインする空間だけでなく、街並みにも関心をもってもらいたいと思い、これからも学生にこの街を紹介してゆきます。
文・野口 朝夫
日本デザイナー学院校長。一級建築士。
野口朝夫建築設計所代表として、住空間を中心とする各種建築設計監理を手がけている。日本デザイナー学院では、住空間・フィールドワークなどを30年にわたり担当。現在 校長。国際NGO事務局長として40年間にわたり、ラオスでの読書推進活動に携わっている。
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