PicoN!な読書案内 vol.13 ― 『エンタメビジネス全史』

この連載では、出版業界に携わるライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。
今回は、日本のエンタメビジネスを網羅的に学べる1冊。

『エンタメビジネス全史』
中山淳雄(日経BP)

中山淳雄氏プロフィール
1980年生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。エンタメ社会学者/Re entertainment代表取締役。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト トーマツ コンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにて新規会社を設立。2016年、ブシロードインターナショナル社長としてカードゲームやアニメ・プロレスなど日本コンテンツの海外展開を担当。現在はエンタメ企業のコンテンツ開発や海外化に向けたコンサルティング、ベンチャー企業の社外役員、大学での教育研究や行政アドバイザーなどを行っている。コンテンツビジネスにまつわる著書多数。

 

「PicoN!」をチェックしている皆さんであれば、広く「エンタメコンテンツ」に関心があるのではないか、と思う。今回紹介するのは、日本の様々なエンタメを「ビジネスの進化」という視点で1冊にまとめたビジネス書だ。

著者である中山淳雄氏は、エンタメ社会学者として知られる。「社会学」とは、集団や価値観、文化形成の構造を解き明かす学問のことだ。
「エンタメ社会学」とは、エンタメビジネスがもたらした経済・環境などの社会変化を捉えるものといっていいだろう。アニメやゲームを作ってファンが出来上がる過程や、社会現象を巻き起こしたコンテンツの裏側を分析するなどが挙げられる。
特に日本のエンタメビジネスは諸外国と異なる進化を遂げてきた。「マンガ」「アニメ」「ゲーム」など、あらゆる業種に日本で生み出された革新的なコンテンツが存在する。

本書では、多くの人が知る国民的人気タイトルやエンタメジャンルの有名企業が多数登場する。概要と、その魅力を紹介する。

日本のエンタメコンテンツの歴史書として

本書では、エンタメビジネスの核となる9ジャンル(「興行」「映画」「音楽」「出版」「マンガ」「テレビ」「アニメ」「ゲーム」「スポーツ」)にフォーカス。
その成り立ちから、経済として確立するまでや歴史的な事件、ユーザーのライフスタイル変化やグローバリズムによる近年の傾向、また今後の展望まで、それぞれが非常に分かりやすくまとめられている。また、諸外国と日本国内の文化の違いについても、各業種の歩みにより知ることができる。

多種多様のコンテンツが生み出されてきたが、そこには時代の流れを変える多数のゲームチェンジャーの存在がある。
日本の興行を作り上げた東宝・松竹・吉本、アイドル文化やJ-POP産業を作り上げた音楽・芸能事務所、メディアミックスやキャラクタービジネスで最大手となったKADOKAWA…
企業だけでなく、天才的なクリエイターの登場も、歴史を変えた出来事だ。
新しい視点や価値観を作るチャレンジをしてきた先人たちの活動は、端的にまとめられていても非常に心揺さぶられるものばかりだ。

エンタメビジネスを学ぶ解説書として

歴史的な流れと共に、業種ごとのビジネスについても本書で知ることができる。市場規模の違いやビジネスモデルの違い、また同じ業界でも会社の成り立ちやカラーが違うなど、この1冊でさまざまな業界知識を得ることができる。
例えば、同じアニメ映画でも、多数のヒット作を世に送り出してきたスタジオジブリと、鬼滅の刃をヒットさせたアニプレックスでは、ステークホルダーやビジネス戦略の違いにより、その収益性も異なる、といった具合だ。

普段、時間やお金を使っているあれこれが、どのような背景で作られ、自分たちの元まで届いているのか。本書でその構造を知ることで、きっと新しい観点からコンテンツを楽しむことができるはずだ。

文・写真:ライター中尾


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