ミッフィーってすごい?―ディック・ブルーナのグラフィックデザイン的創作― 1

はじめに

キャラクターグッズの専門店というと皆様はどのようなお店を想像するでしょうか。私の地元にはスヌーピー、ムーミン、スイミーで有名なレオ・レオニのネズミのキャラクターのフレデリック、ディック・ブルーナのミッフィー、エリック・カールのはらぺこあおむしなど、オシャレでかわいいキャラクターグッズを扱う店があります。これらのキャラクターは大人から子供まで幅広い層に人気ですが、コンテンツ産業やキャラクタービジネスが今のように注目されるずっと以前から、世界中で愛され続けているというのは、考えてみればすごいことです。

スヌーピーはマンガ、ムーミンは主に児童文学から出たキャラクターですが、フレデリック、ミッフィー、はらぺこあおむしは絵本のキャラクターです。そしてこれらの生みの親、レオ・レオニ、ディック・ブルーナ、エリック・カールは、なんと3人ともグラフィックデザイナーでもあったという共通点があります。この世界最高峰の絵本作家といってもいい3人に共通のキャリアがあり、今なお世界中で愛されるキャラクターが生み出された背景や秘密というものを、ここではディック・ブルーナのミッフィーを中心に扱いながら考えていきます。

シンプルゆえの普遍性

筆者は専門学校の授業でキャラクターデザインの講座を担当しているのですが、キャラクターデザインについて話をする際、必ず引き合いに出して紹介するのがうさこちゃんことミッフィーです。まずはこの画像を見てください↓(※1、※2)。

※1 参照:キーボード MIPOW official Store

※1 参照:キーボード MIPOW official Store

※2 参照:マグカップ ミッフィーハウス

なんというデザイン性!なんというオシャレさ!

ミッフィーが生まれたのは1955年頃と言われていますが↓(※3)の画像をみるとマイナーチェンジはしているものの、基本的なデザインは1963年には決定し、88年以降はほぼ共通です。

※3 出典:「ミッフィーからの贈り物-ブルーナさんがはじめて語る人生と作品のひみつ―」ディック・ブルーナ 2015 講談社 p67 p68 p89-90

ここで注目するべきポイントですが、ブルーナの作品の特徴の一つが「絵柄が古くならない」ことです。参考までに紹介すると、それとほぼ同時期の日本の鉄腕アトムの連載開始が1952年、TV放映が1963年です。こうやって並べてみると(※4、※5)どちらも大変魅力的ですが、マンガやアニメの絵柄がその後非常に速いテンポで時代とともに変化してきたことを考えると、ブルーナの絵が冒頭にあげたオシャレなキーボードのようにいまだに先進的で、ほぼそのまま使っても、まったく現在進行形で通用するのは驚きです。

足し算の絵、引き算の絵

よく絵描きの間では「足し算の絵」「引き算の絵」みたいなことが言われます。「足し算の絵」が画力重視で、構図、陰影、色彩・・・と様々な要素を加味して描き込んで複雑化するのに対し、「引き算の絵」というのは必要な要素を厳選し、無駄なものをそぎ落とし単純化していく傾向があります。そして引き算の絵はデザイン的な絵というようなこともよく言われます。私はこの「引き算の絵」というのを考えるときに、その特性を最大限に生かした表現として、いつもブルーナのミッフィーを真っ先に思い浮かべます。

※6 参照:非常に描き込まれた絵画の一例。システィーナ礼拝堂のミケランジェロの作品

今回は世界中で愛されるキャラクターが生み出された背景や秘密というものを紹介しました。

次回はミッフィーの生みの親「ディック・ブルーナー」についてさらに深堀していきます。

お楽しみに!

NDS講師 いとうみちろう
イラストレーター。児童書や絵本、教科書や雑誌、アプリ、カード、舞台美術などさまざまな分野を手掛ける。教育関係の仕事の傍らフリーランスとして活動をはじめ、これまでカルチャーセンターや美術学校などで、小学生から高齢者まで幅広い年代を対象に講師として指導。

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