きいろとあおはまざるとみどりになる②
前回の話↓
「絵本概論」を学んでいた当時、大学の図書館で、『平行植物』という本にも出会った。
『平行植物』
マネモネ、イロメキ、ツキノヒカリバナ、フシギネ……見たことも聞いたこともないようなあるような奇妙な植物に関する本で、その作者もレオ・レオーニだった。たとえば《フシギネ 日本の生物学者上高知がクモデの花々の間に発見した平行植物。遠くから見ても近くに寄っても同じ大きさに見えるという奇妙な性質がある。植物が空間を歪めるのか、あるいはわれわれの知覚が異常を起こすのか?(『平行植物』レオ・レオーニ、宮本淳訳、工作舎)》というようにいかにもあるようにまったくデタラメなことがかいてある。
さらに図書館で、『平行植物』を出版した工作舎の『間の本─イメージの午後』という松岡正剛とレオ・レオーニの対談集も見つけて、いったいこのひとは……その博識さに感心した。1997年にアメリカのクノップ社から出版された『WORLD BETWEEN The Autobiography of Leo Lionni』には、松岡正剛とレオ・レオーニの対談の写真が文章とともに紹介されている。レオーニはこの『間の本』について、こう書いている。《西洋人には説明不可能に近い「間」だが、その意味を少しは理解できたと自負していたが、共著である(もちろん大切にしている)この本の内容は、今となっては本当によくわからないというのが正直なところだ》。ずっとほしくて、古書店でみつけて以来いまでも読み返すとっても大切な本だ。ここにはレオーニの造形に対する姿勢がかいてある。
「センチュリー」
それから『間の本』のなかにこういうことがかいてある。《タイプフェイスにはいろいろなヴァリエーションがありますが、じつはわたしは「センチュリー」にこだわっている。アメリカで『フォーチュン』誌のアート・ディレクターだった当時からそうだった》。「センチュリー」書体は、『ザ・センチュリー・マガジン』の本文用書体として1895年にテオドール・ロゥ・デ・ヴィネとリン・ボイド・ベントンによってつくられ、その息子のモーリス・フラー・ベントンが「ファミリー」として完成させた書体の総称だ。「ファミリー」というのは、たとえば縦に長い山田のお父さんと、横に太い山田のお母さん、すこし斜にかまえた山田のお姉さんとまったく、普通の弟というように、それぞれに太さや正体か斜体かという違いがあってもみんな「山田家」のひとたちというような、重心(体型)やエレメント(造作)はおなじだが太さや幅がちがう書体の集まりを言う。
「センチュリー」書体は、早い段階でこのファミリーの概念をデザインにとりいれた書体で、レイアウトするときに、文字の強弱のバリエーションがつくることができるし、縦線と横線の太さに差が少ない、癖のない、読みやすいところがレオーニの好みだったのかもしれない。レオーニがアートディレクションした『フォーチュン』誌は、たしかに彼の就任時に本文書体を「センチュリー・エクスパンデッド」に変更しているが、見出しやタイトルは、「ボドニ−・ブック」のイタリック体を使用している。さらに1956年号からは表紙のタイトルを「オーロラ ゴシック」に変更しているので、なんでもかんでも「センチュリー」というわけでもないのかなとも思う。ちなみに『Little Blue and Little Yellow』のタイトルは「センチュリー・スクールブック・イタリック」だ。本文は「センチュリー・スクールブック」。最近日本語版のボードブックが発売された。そのデザインはグラフィックデザイナーの佐藤卓氏で、従来の明朝体(モリサワのアンチック体AN1)から表紙も中身もゴシック体に変更されている。
参考・引用文献一覧
『平行植物』レオ・レオーニ、宮本淳訳、工作舎
『間の本 イメージの午後』レオ・レオーニ & 松岡正剛 対談、工作舎
文:守先正
装丁家。1962年兵庫県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科卒業。
花王、鈴木成一デザイン室を経て、‘96 年モリサキデザイン設立。
大学の先輩でもある鈴木成一氏にならい小説から実用書まで幅広くデザインする。
エリック・カール『ありえない!』偕成社、斉藤隆介、滝平二郎、アーサー・ビナード『he Booyoo Tree モチモチの木』などの絵本のデザインも手掛ける。