• HOME
  • ブログ
  • アート
  • 「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art –No26:『 没後30年 榎倉康二 』展 について

「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art –No26:『 没後30年 榎倉康二 』展 について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

すっかり冬の装いに変わりました。まもなく2025年も年の瀬を迎えようとしています。

今回は東京国立近代美術館2Fギャラリー4で『没後30年 榎倉康二』展が現在開催中です。そこで彼の作品をいくつかご紹介したいと思います。1942年に東京で生まれた榎倉康二は東京藝術大学を卒業し1995年に52歳で他界されています。

彼の作品の紹介を前に「作品というものについて」少しあらたまったお話です。

絵画の前に立つ鑑賞者にとって、そこに描かれ紡がれる物語を観るでしょう。鑑賞者は物言わぬその対象によって、感動したりあるいは圧倒されて、そして様々な想いをいだきます。

人は観るという行為によって『作品』から感受することができます。

ではその『作品』とは何だろうか。観ている対象物は何なのだろう?

ある時、日本の現代美術の担い手たちはその問いをとことん突き詰めていきました。ストイックに理性を研ぎ澄ませて、様々な事柄を取り払い作品の成り立ちを分解していきます。これまで作品に内在した構造を解体していくのです。

やがて彼らは「観ているモノは何か?」の問いに、「そこにあるものは『もの』である」という到達点に行き着いたのです。

これから紹介するのは榎倉康二という日本人の作品です。これまでお話しした『作品』についての問いを作品化した作家です。日本の現代美術史に大きな功績の残した『もの派』と呼ばれる作家の代表的な一人です。

シンプルであるが故に面白いですよ。

話が長くなりました。まずは、この作品から_

【 榎倉 康二 Koji Enokura『 無題 / Untitled 』1978年 135 x 190cm 綿布に廃油 東京画廊+BTAP 個展に出品 】 ※ソース/画像引用元:https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/18658 美術手帖HPより出典

この作品は全体が少し褐色がかった綿布と廃油のみで制作されています。見ると布に油の染みが見えています。

綿布・廃油という2つの素材によって成立したこの作品。鑑賞者は布に広がった油の染みという現象を観ています。そこに具体性のあるものは一切描いていない。

作者は2つの素材、綿布・廃油という『もの』を作品としたのです。

先に述べました、『観ているモノは何か?の問いに、そこにあるものは『もの』である。というある到達点』をまさに具現化した作品の一つです。

【 榎倉 康二 Koji Enokura『 無題 / Untitled No.1 』1980年 310 x 740cm 油彩・綿布 豊田市美術館蔵  / 愛知県 】 ※ソース/画像引用元:https://www.museum.toyota.aichi.jp/collection/enokura-koji 豊田市美術館美術館HP

2枚の横幅7メートルを超える布で構成されたこの作品。

油彩によって黒色の布に一部重なる手前の明るめの布をよく見ると、奥の布の油が移って染み出している様子が見てとれます。

布に塗り込められた黒い油とそれから生まれた染みで作品としています。布と油それぞれの『もの』の姿が作品の核心です。

一枚の布は平面的に展示されていますが、もう一方の布は壁から床にかけて展示されています。

このインスタレーションによって布のもつしなやかな材質も作品に内包させています。

【 榎倉 康二 Koji Enokura『 Figure B-No.60 』1986年 165 x 345cm 綿布・アクリル 】 ※ソース/画像引用元:https://www.tokyo-gallery.com/artists/koji-enokura.html 東京画廊BTAP HP

縦に二箇所で継がれた綿布が広がっています。そこにアクリル絵具の黒が間隔をあけて施されていますね。それはモノクローム(単色)にも関わらず、じつに「滲み(にじみ)」の表情があります。極めてシンプルな最良の組み合わせです。作者はアクリル製の塗料が布面に滲透して広がっていく様(さま)を時間をかけ、素材同士の作用と『時』による自然な現象の到達だけをただ待っている姿勢です。

そこに余計な手を加えない、というストイックな製作手法です。

ここで述べた講釈抜きにして鑑賞したとしても、作品のもつ存在感があります。

ここで、彼の個展の展示の様子を見てみましょう。

【 『榎倉 康二展』/ Solo exhibition Koji Enokura  1991年 6月3日~6月15日 東京画廊にて開催 銀座/東京 】 ※ソース/画像引用元:https://www.tokyo-gallery.com/exhibitions/1441.html 東京画廊BTAP HP

1991年ですので、今から34年ほど前(作家がご存命)の個展の様子で、画廊に展示された作品です。彼の作品の大きさ、サイズ感が伝わる写真です(東京画廊サイトから出典)。布を継いだ部分や作品の一部が黒光りしているのが見えています。おそらく実際には相当な存在感があるだろうことが想像できます。

【 『榎倉 康二展』/ Solo exhibition Koji Enokura  2018年 11月17日~12月29日 東京画廊にて開催 銀座/東京 】 ※ソース/画像引用元:https://www.tokyo-gallery.com/exhibitions/895.html 東京画廊BTAP HP

こちらは同じ画廊による2018年の個展(回顧展)です。照明設備の関係か明るい展示室での画像ですね。

さて、ラストに紹介するのは_

【 榎倉 康二 Koji Enokura『 干渉 (STORY-No.18) 』1991年 アクリリック・綿布・木 東京国立近代美術館蔵 / 東京】 ※ソース/画像引用元:https://www.momat.go.jp/exhibitions/r7-2-g4 東京国立近代美術館HP

(クレジット引用・展覧会リスト:https://www.momat.go.jp/wp-content/uploads/2025/11/76425c6800b2b854739e3b6f990cc14f.pdf

壁面に展示された綿布の右側にはアクリリック(アクリル製塗料)の黒い面が広がり、左には縦に長く黒い長方形があって、そこから滲(にじ)みが周囲にみられます。さらにその傍に1本の黒い角材が立て掛けられていて、長方形との関係を暗示しているかのようです。この左右に対をなす関係により、タイトルにある『干渉』という言葉が意味を帯びてきます。

作者はこの作品で布と塗布材、木材やその形という『もの』から起因して『もの』に帰結した表現を提示しました。

もの派という日本の美術史上のチャレンジは1960年代末から70年代中期にかけて本当に短い期間でした。ただ「この見ているもの(作品)は何なのか、それは『もの』である」という明快かつストレートなアプローチによる一連の作品群に世界に大きな影響をもたらせました。

この作品を含めた榎倉 康二の作品展が現在、東京、竹橋で行われています。

皇居のお堀のそばにある東京国立近代美術館『没後30年 榎倉康二』展では、彼の残した作品の数々とともに彼に師事した作家の作品も同時展示されています。

この展覧会は東京メトロ【竹橋駅】から出て徒歩5分。日本の「もの派」作品に出会ってみませんか?

※「キャンバスメンバーズ」カードを持参しましょう。提示で無料にて入館できます!

… … … … … … … … … … … … … … …

【展覧会情報】

『 没後30年 榎倉康二 』展

2025年 11月5日(水)~2026年 2月8日(日) 東京国立近代美術館2Fギャラリー4(東京都・千代田区竹橋)

https://www.momat.go.jp/exhibitions/r7-2-g4


↓PicoN!アプリインストールはこちら

関連記事