ミニチュアな世界から実像と虚像を問いかける。「本城直季 (un)real utopia」
みなさん初めにこの作品をご覧いただきたい。
いかがだろうか?誰かが入念に作りこんだジオラマ撮影に見えるかもしれないが、これ実は本当にある風景をまるでミニチュアに見えるように撮影している作品である。今回は大判カメラのアオリを利用して、都市の姿をジオラマのように撮影する独特の表現方法が有名な写真家・本城直季氏「本城直季 (un)real utopia」の展示の様子をお届けする。
5/15(日)まで東京都写真美術館にて開催していて、今回は大規模個展として、未公開シリーズを含む約200点の作品を展示している。
本城直季氏、作品の魅力
圧倒的な作品量、本城氏の世界観をたっぷり堪能してきた筆者の感想はよく知る街並みや景色が小さな世界として表現されており、「愛らしい、可愛い」と感じた。実際に会場を見ても、若い世代の人、カップルが「これ可愛いね」と言いながら写真を撮影している姿も見受けられて、本城氏の作品は老若男女問わず興味をそそる作品だ。
街・風景全体の様子が凝縮され、明るい色合いであったり、1枚を通してそこにある歴史を見ることが出来るのだ。また作品を近くでよく観察すると人や動物の動き、建物1つ1つのディティールの違いを発見できる。このように遠くで見たり、近くで見たり別の世界を体験しているような感覚に陥るのであった。
また本城氏は「small planet」にてミニチュア世界の風景を以下のように語っている。
「ミニチュアのように見えて不思議な写真かと思うかもしれないが、実は人が見る目線にとても似ている。人の目線は絶えず動いていて、意識して見られる風景はごく一部だけで、写真のように風景全体を把握できる目線を持ち合わせていない。」
作品の物語
今回の展示では人工的に作られ、建物が続く広大な都市「tokyo」やそれと対比して、日本らしい自然や四季を感じることのできる「kyoto」また人間によって作り上げられたものだけでなく、自然や動物によって作り出される痕跡が感じられる「kenya」など物語が作品で変化していく。
本城氏の作品は時期・天候・人や動物の動きが読めない中、タイミングや条件が合う最高の瞬間に1枚を切り取ったものである。私はそれに何か見えない生命の強さを感じた。それには人間はもちろん木々や建物の1つ1つにも意思を持っているように見えたので、感動であったり美しさが伝わったのであった。
また展示の中で本城氏が大学4年の時に借りた大判フィルムカメラで試行錯誤しながら撮影した写真の一部やポラロイドカメラを使って街並みを撮影していた学生の頃の活動なども紹介されている。今のスタイルまで至った軌跡、本城氏の語る「“まち”の不思議を楽しんでほしい」を是非実際に足を運んで体感してほしい。きっと今まで見ていた街並み、景色がより愛しく感じるだろう。
本城直季 (un)real utopia
会場:東京都写真美術館 地下1階展示室
会期:2022年3月19日(土)~5月15日(日)
開館時間:10:00~18:00(木・金は20:00まで)※入館は閉館時間30分前まで
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)、ただし5月2日(月)は開館
入場料:一般1100円、学生900円、中高生・65歳以上550円
公式サイト:https://honjonaoki.exhibit.jp/
本城直季
1978年東京都生まれ。
2004年、東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。『small planet』(リトルモア、2006年)で第32 回木村伊兵衛写真賞を受賞。作品制作を続ける傍ら、過去には、ANA機内誌『翼の王国』で連載するなど、幅広く活動している。作品はメトロポリタン美術館やヒューストン美術館にパーマネントコレクションとして収蔵されている。