並びは規則立ってないと駄目?/美術専門古書店 SO BOOKS連載 Vol.5
うちの店の不規則な書棚の並びを見たお客さんからたまに言われることがあります。
「これどういう順番に並んでますか?」と。
恐らくですがこれにも2通りあって、
- 特定の本やジャンルを探しに来た人でそれがどこにあるか分からない。
- 写真集に詳しい方で、自分の知識とかけ離れた配置と、あるべき場所にあるべき本が無いことに苛立ち指摘。
実際口にされることはないですが例えばの話「どうして秋山庄太郎(日本写真芸術専門学校の初代校長ですね)の隣にレスリー・キー?」みたいな(苦笑)。
いずれにしろ僕はこう答えてます。
「一応うっすらとした括りでまとめてはいるんですが、基本不規則なんです。ごめんなさい。でもこの小さな店できちんと並べてしまうとつまらなくなってしまうんですよ。」
大規模な書店や図書館なら仕方ありません。規則的に並べないといろんな意味で運営的に難しいでしょう。100%理解できます。
でもうちのようなせいぜい数坪の個人店で、無理して一目瞭然のアルファベット順に並べてたら、便利かもしれませんがどんな書棚になるでしょう。ある意味逆に面白いかもしれませんが。。。
1の方の問題は、目の前に店員います聞いてくれれば解決します。そこは個人営業の小さな専門書店の良さでもあると思います。
2の方はまあ仕方ないですね。でもベンヤミンのフラヌールではないですが、本音言うと、このぐらいの本の量なら、そうした不意な並びからくる出会いや探す楽しみを味わってほしいんですよね。でも秋山庄太郎の隣にはちゃんと藤井秀樹がいるんですよ。貴校生徒さんならもちろん分かってくれますよね。実際このデタラメ配置を楽しみながら探すお客さんが大半です。
さて並びという話のついでに先日こんな本が入ってきました。
10年ぐらいキャリアある人の写真集なんですが、プライベートな日常、仕事で世界中を回るなかで撮りためた膨大な量の写真スナップからコンパイルした、この人にとって一種のレトロスペクティブ(ベスト集のようなもの)なんですが、普通そうした本なら時系列にまとめていくのが相場です。
ところが彼がチョイスした380枚余りの写真の並びは一見デタラメ。しかし実は朝から夜という1日24時間という凝縮した軸の中にそれらを撮影”時間”順に詰め込んでいるのです。例えば2020年夜明けに撮った写真の次に、2015年に撮った恋人の朝の寝顔といった具合で、だいたいアバウトではありますがそれが夜更けに撮った写真まで続くのです。
またその並びにも唸ります。見開き2つに並んだ写真は、その視覚的効果を最大限に活かすよう既成概念にとらわれることなく配置され、それがまた推敲に推敲を重ねた感がありありです。
このあいだラルティーグ好きの女性のお客さんから、自分の幼い子どもに写真集を見せたいんだけど何かいいのあります?と聞かれ、若干肌の露出はあるのものの(汗)あえてこれを勧めました。この人はなんでこの2つの写真をこういうふうに並べたのかな?という親から子への優しい問いかけが可能だからです。その女性は大いに賛同してこれを購入されていきました。
単に視覚的意外性を追いかけるあまり、肝心の中身、本来写真が語りかけることや、編集の意図を置き去りにしてはしてしまっては、ただそれだけの本として終わってしまいます。この本には写真家の個性が見事に投影され、写真自体の素晴らしさと溢れんばかりのインティマシーとで、完成された世界観があるからこそ成り立つ構成だと思います。ですが展覧会の図録カタログみたいな極めてオーソドックスな並びにするのも勿論有りですし、並びなど一切関係ない作品などもあります。
またうちで人気ある鈴木育郎写真集のように使い捨てフィルムカメラ36枚を撮った順番に並べているだけというのもあります。いずれにせよどうすれば自分の写真がマックスの効果を発するか考えつつ、とにかく名作名編集とされる写真集を数多く見て自分の中に吸収していくことだと思います。難しいですがそれに尽きるのかなと。
最後にこれ、日本ではほぼ知られてない人ですが、見せると面白がって多くの方が買われていき既に残部僅少です。もしよろしければ。
➢Je t’aime Je t’aime | Léo Berne
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(以上敬称略)
文・ 小笠原郁夫(美術専門古書店 SO BOOKS)
2001年写真集/アート専門のネット書店書肆小笠原が前身。屋号をSO BOOKSと変え、代々木八幡に実店舗を構えて12年目に突入。本の買取もおこなっている。https://sobooks.jp/
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