グッドモーニングトウキョウ vol.2-1
写真家 フジモリメグミ
朝、トースターから食パンの焼ける匂いがしてくる。
私は1階の掘りごたつを改装した暗室で、課題の作品をプリントしていた。祖父から譲り受けたLuckyの引き伸ばし機を使って、週2回程徹夜で作業をする。雨戸を閉めて真っ暗な部屋で作業をしていると、どのくらいの時間作業をしていたのか、いま何時何分なのか、わからなくなる。
写真学生だった当時の私は、二世帯住宅に暮らしていた。1階は祖父母の生活エリアになっていたが、私はそういうことはあんまり関係なく行き来していた。客間を乗っ取り作業部屋にしていたし、その隣を暗室にしていたし、夜な夜なお風呂で写真を洗浄していたし、お腹がすいたらばーちゃんの作るかぼちゃの甘煮を食べさせてもらっていた。そんな私を二人は優しく見守っていてくれたように思う。
「東京の朝」の撮影をはじめた頃、祖母が体調を崩した。といっても97歳、身体のあちこちに支障がでてきてもおかしくないのだが、ついこの間まで階段を昇り降りする姿を見ていた身としてはどうにも受け入れ難いものがあった。静かにゆっくりと死に向かう。誰もが通る道だ。祖父が亡くなってからも10年以上生きた彼女は、本当にゆっくりその道を歩んできたとおもう。自分の人生から祖母がいなくなる日がくるなんて、そんなことが本当に起こりうるのだろうか。
お年寄りの朝は早い。彼らの寝室から物音がしてくると、朝になったんだなと理解する。パンの焼けた音が聞こえると朝のニュースがはじまる。美味しそうなコーヒーの香りもしてきた。東京の朝が始まる。
フジモリメグミ
1986年東京都生まれ。2011年に「ワンダーシード2011」入選。2011年petit geisai#15 準グランプリを受賞。2013年よりTAP Galleryに所属。2015年にニコンサロンJuna21に入選。2017年ユカイハンズパブリッシングより写真集「apollon」を出版し、2018年「kairos」銀座／大阪ニコンサロンに入選、2019年に第4回epSITE Exhibition Awardのグランプリを受賞した。
様々なクリエイターに“東京の朝”をテーマにした作品を制作してもらう『グッドモーニングトウキョウ』。今回は写真家のフジモリメグミさんに35mmのカラーネガフィルムを渡し、彼女の見る景色を撮影してもらった。数週間後、撮影済みのフィルムでいっぱいのジップロックを持ってきてくれた。とても一回では終わりそうにない本数が入っていた。
というわけで、つづく。
PicoN!編集部 奥
