飯塚明夫アフリカフォトルポルタージュ《ニャーマ》 Living For Tomorrow:明日へ繋ぐ命 #6
アフリカ大陸には54ヵ国、約12億人の人々が暮らす。ライフワークとして約30年間、この大陸の人々の暮らしと文化、自然を取材し実感したことがある。それは「彼らに明日は約束されていない」ということだ。
アフリカの人たちの「命の生存」を支える経済基盤は驚くほど脆弱である。不安定な現金収入のため、「その日暮らし」の状況に置かれている。今日の一日の労働は、明日に命を繋ぐための闘いだ。
だが彼らから感じるのは、悲壮感よりエネルギッシュな生活力である。厳しい社会状況の中で一生懸命に生きる人々に尊厳を感じたことも多い。そのような彼らの姿をシリーズでお伝えしたい。
メインタイトルの「ニャーマ」は「霊魂・生命力」等を意味する西アフリカに住むドゴン族の言葉である。アフリカの人々の中に息づく逞しい「ニャーマ」を少しでも感じ取っていただけたら幸いである。
アフリカフォトルポルタージュ-#6
西アフリカ・塩の話〈Ⅱ〉
-海の塩-
海から遠く離れた西アフリカ内陸部では、生命の維持に欠かせない塩の入手に昔から大変な苦労をしていたと、前回の#5で皆さんにお伝えした。今回は「海の塩」の話である。
アルジェリア、チュニジア、ガーナ、マダガスカルなど、アフリカ各地で海岸沿いに拡がる塩田を取材してきた。海水から塩を取りだす方法は基本的には、自然の摂理に従って「太陽光で水分を蒸発させ、塩の結晶を析出」させて作る。「砂漠の塩」に比べて手間は掛からないが、そこには別の困難があった。
「バラ色の湖」で塩を掘る
取材した様々な海水の塩田のなかで一番強く印象に残っているのが、セネガルの西端にある「ラック・ローズ」だ。「ラック・ローズ」はフランス語で「バラ色の湖」の意味。「レトバ湖」という正式名称があるが、地元の人々は親しみを込めて「ラック・ローズ」と呼んでいる。
この湖は入江が塞がって出来た約3㎢の塩湖である。西アフリカの強い日差しが湖の水分を蒸発させるため、塩分濃度は平均的海水の約10倍、海水100gに34gの塩が溶けている。ラック・ローズは天然の塩製造機である。
塩を掘るベストシーズンは、乾季の真っ盛りの3月~5月。この時期には近隣諸国から1000人以上の男女が集まり、塩の生産に励む。採れた塩はセネガル国内では料理や魚の保存などに利用されているが、品質の高さから人気があり近隣諸国にも輸出されている。
浅瀬では女性や子供たちがザルで塩をすくい、大きなポリバケツに貯めて岸に運ぶ。水深が1mを超える所では男たちがスコップやザルを使って塩を掘り、木製の小型ボートに積む。約1トンの塩を掘るのに3~4時間かかるという。深いところほど結晶が大きく上質な塩が採れて稼ぎもいい。だが塩分濃度の高い海水に浸っての長時間の肉体労働は、体力の消耗と皮膚へのダメージが深刻だ。
「Life is not easy」(生きてゆくのは大変だよ)
ラック・ローズで7年間塩を掘っているサイアル・センさん(30歳)に話を伺った。サイアルさんはセネガルのチューバ地方の出身、同郷の仲間二人とチームを組んで塩を掘っている。
「塩を運ぶボートも金を出し合って、120,000CFA(約3万円)で買った。一生懸命に働けば一日の稼ぎは悪くないけど、傷があると塩が傷口に沁みて辛いので、休まざるを得ない。塩を掘るのはきつい仕事だ。もしほかにいい仕事が見つかれば、直ぐにでも変わりたい」という。隣で話を聞いていた同郷の二人も深くうなずいた。
次に話を聞いたマホメットさんはシエラレオーネからの出稼ぎ労働者だ。長年にわたる内戦で仕事がなく、仕事を求めてセネガルにたどり着いた。
「塩堀の労働はきついが命を奪われることはない。紛争の続くシエラレオーネよりセネガルの方が安心して働ける」
インタビューのお礼に差し出した煙草に手を伸ばしながら、「Life is not easy」とマホメットさんはつぶやいた。その言葉は自分自身に言い聞かせているように私には思えた。
美しいバラ色の湖面の風景は人気があり、セネガル内外から多くの観光客が訪れる。その隣で高濃度の海水に浸りながら、マホメットさんたちの苛酷な塩堀は続く。
文・写真/飯塚明夫
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