やさしく解説！ 写真をプリントする意味ってなに？ 第3回 ～写真の色は自分が決める？～
前回は「今もなおプリントがなくならないのはなぜか」に対する答えを探るため、番外編をお届けしました。
第3回目は写真プリントのポイントとなる、写真家が意図する色味の再現と、写真をどういった印象で仕上げるかについて解説します。
写真をプリントする意味には、大きく２つがあります。
一つは、自分が決めた色を正しく伝えるため。もう一つは、画像だけでは伝えきれない印象やイメージを画像以外の要素で補強するため。どちらも「写真を伝えること」に関するものです。
「自分が決めた色を正しく伝える」……写真集の印刷
例えば写真集を制作するとき、ほとんどの場合「色見本」と「色校正」のやり取りをします。
まず写真家が「色見本」をプリントで用意して、印刷会社に渡します。「私の写真はこういう色なので、なるべくこの色が出るように印刷してください」という見本です。
そして、印刷会社で色見本を参考に試し刷りをして、写真家が求める色になっているかを確認します。
この試し刷りのことや、試し刷りを確認することを「色校正」といいます。
これは、写真家と印刷会社が「色見本」と「色校正」でコミュニケーションを取っていると考えることができます。まさに、プリントで色を伝えあっているのです。
こだわる場合はこの色校正が数回に及ぶこともあり、色の微妙な調整を繰り返して、完成形に持っていくのです。なぜここまでこだわるのか。それは、微妙な色の違いで写真の感じ方、伝わり方が変わるからです。
「自分が決めた色を正しく伝える」……写真展
会場を借りて写真展を行う場合は、どんな照明で、外光が入るのかどうかといったことが事前にわかります。それを踏まえて、会場で自分が思った通りの色になるようにプリントを制作します。そうすれば、会場に来てもらうことで、自分が決めた色で作品を皆に見てもらえます。
ではこれがメタバースでの写真展だったらどうでしょうか。同じ写真展ですが、作品はプリントではなく画像データとなり、その見え方は見る人のデバイスによりけりになってしまいます。写真を画像でみんなと共有しても、人によってスマホの画面で見えている色が違うというのは経験していることと思います。これが「貼り紙の記録」なら、貼り紙に書かれている情報が正しく伝われば問題ないですが、作品となったらそうはいきません。だからプリントも写真展もなくならないし、写真学校はプリントを教えるのです。
先に紹介した写真集も、そもそも自分で決めた色で作品を見てほしいから、プリントの形で伝えるために制作するわけです。
同じ写真データでも、表示するデバイスによって全く違った色味で映ります。
「自分が決めた色を正しく伝える」……写真の色は自分が決める
第１回で見てもらったように、同じ写真でも明るさや色が違うと受ける印象が変わります。
暗い写真からは暗い印象を受ける、青い写真からは寒い印象を受けるというのもその一例です。
モノクロ写真にも色はあります。青っぽいグレーと赤っぽいグレーとでは、印象が違って感じられます。写真の明るさや色をどうするかというのはそれだけ重要なことなのです。
上から、青っぽいモノクロ、普通のモノクロ、赤っぽいモノクロと並んでいます。微妙に印象が違って見えると思います。モノクロにも色はあるのです。
写真の色をどう仕上げるかについて、写真を学んでいる人からよく聞くのは「見たままの色にしたい」ということです。ですが、「見たままの色」というのは、結局はその本人にしかわからないのです。その時の気持ちや体調によっても色の印象は変わりますし、色には「記憶色」というものがあり、被写体の実物の色と人が記憶している色は違う場合がほとんどです（例えば人の肌の色は、実際よりも綺麗に記憶されています）。
ですから、写真で表現をしようとする場合、誰でもない自分が写真の色を決め、「私が見た・感じた色」を伝えなければならないのです。
次回は、編集部の濱田さんと一緒に、あらゆる種類の用紙を見ながら、実際に作品をプリントしてみます。
芳田 賢明
イメージングディレクター／フォトグラファー
日本写真芸術専門学校 非常勤講師
株式会社 DNP メディア・アート所属、DNP グループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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