【写真学校教師のひとりごと】vol.12 喜多研一について

わたし菊池東太は写真家であると同時に、写真学校の教員でもあった。
そのわたしの目の前を通り過ぎていった若手写真家のタマゴやヒナたちをとりあげて、ここで紹介してみたい。
その人たちはわたしの担当するゼミの所属であったり、別のゼミであったり、また学校も別の学校であったりとさまざまである。

これを読んでいる写真を学ぶ学生も作品制作に励んでいるだろうが、時代は違えど彼らの作品や制作に向かう姿が少しでも参考になれば幸いだ。

▼前回【写真学校教師のひとりごと】


 

この男、喜多研一はわたしのゼミ出身ではない。
特別講義というのがあり、ゲスト講師を校外からお呼びして、いっしょに学生の写真を見るのだ。
対象の学生はクラスも学年も自由だ。だから、そこにかれも入ってこれたのだ。

いままでに長野重一、桑原史成、土田ヒロミ氏などそうそうたる写真界の大御所に、ゲスト講師として登場してもらった。そのときに喜多研一と出会ったのだ。
ゲスト講師はそのとき、喜多の写真およびその方向性を支持し、あとは撮り進めるだけということだった。

2015年「枯れない街」 SpaceJing

 

だが、それにしてはちょっと時間がかかりすぎている。撮っている間に作者の考えや感性からくる方向性も変化なり、進化をとげるだろう。
初期に撮った写真と最近撮った写真がギクシャクしてきているはずだ。そろそろケリをつけるときだ。
最近かれに会ったら、一年ぐらいは発表しないでおとなしくしていようと思う、と言っていた。
良い考えだと思う。よおく考えることだ。

かれを知ってまだ間がないころ、喜多研一の写真を見て、少なからず衝撃を受けたのを今でもおぼえている。
表通りから一本入った裏通りの写真だったが、キラリとしたなかなか斬新なキリ口だった。
根本的にはキミは必要な才はもってるんだよ!
最近、そういった可能性を感じさせる写真が少なくなってきているのは事実だ。
雑音を排し、フレッシュな気持ちにもどって、被写体として選んだ街角にたってみるように心がけてみたらどうだろうか。

また、長い間東京を撮ってきて、ずいぶんあちこちを見てきたと思う。ある程度対象を絞ってみたらどうだろうか。そうすることによって、ねらいも簡潔になるのでは。
いまは対象が広すぎて、ねらいが定まっていないように見える。自分のイメージどおりではないものを切り捨てることが、一歩前進とわりきることができればいいんだけど。

2018年「枯れない街 2016-2017」 ギャラリーヨクト

 

喜多研一は普通に大学の史学科を卒業し、数多くの職業を転々とし、30歳なかばをすぎてから写真学校に入ってきた、ちょっと遅咲きの変わり種である。
30年あまり自由に生きてきて、それまでの様々を捨て、思い切り方向転換して、こんな写真の世界に入ってくるなんて大した度胸だと思うよ。

奥さんはどんな人なんだろう、とも思う。すごいよね。よほどかれに惚れこんでいるのだろう。素晴らしい相方を手に入れたものだ。
だが、そろそろ人生の中締めの時だ。
職業を転々として生きてきて、その経験をどう活かしていくか、ここで人間としての判断力、力量が問われているように思う。
思い切った切り口、アングル、今まで考えもしなかった方法、いろいろと考えてみるのも大事だと思うよ。
一年間発表をひかえ、熟考し、たまったストレスやエネルギーをどのようにぶつけていくか、楽しみだ。

2023年「空き地について」 TOKYO BRIGHT GALLERY

喜多研一

1974年 東京都大田区生まれ。
1996年 帝京大学文学部史学科卒業。
2015年 日本写真芸術専門学校卒業。

個展
2015年3月『枯れない街』(スペースジング)
2018年2月『枯れない街 2016-2017』(ギャラリーヨクト)
2019年2月 『∑ 枯れない街 Ⅲ』(ギャラリーヨクト)
2019年11月 『GROUND RESUME』(ギャラリーヨクト)
2020年3月 『GROUND RESUME Ⅱ』 (ギャラリーヨクト)
2020年11月『GROUND RESUME Ⅲ』(ギャラリーヨクト)
2021年8月 『GROUND RESUME -土地の履歴書-』(アイデムフォトギャラリーシリウス)写真評論家「鳥原学」氏との特別対談(トークライブイベント)同時開催
2022年5月 『視点 地点 -GROUND RESUME-』(ギャラリーヨクト)
2022年10月 『GROUND RESUME』-2018-2022- (TokyoBrightGallery)
2023年2月 『空き地について』(TokyoBrightGallery)
2023年5月 『GROUND RESUME ‐台東区版‐』(ギャラリーヨクト)
2023年9月 『緑について』(TokyoBrightGallery)
2023年10月 『GROUND RESUME -荒川区版-』(ギャラリーヨクト)

菊池東太

1943年生まれ。出版社勤務の後、フリー。

著作
ヤタヘェ~ナバホインディアン保留地から(佼成出版社)
ジェロニモ追跡(草思社)
大地とともに(小峰書店)
パウワウ アメリカインディアンの世界(新潮社)
二千日回峰行(佼成出版社)
ほか

個展
1981年 砂漠の人びと (ミノルタフォトスペース)
1987年 二千日回峰行 (そごうデパート)
1994年 木造モルタル二階建て (コニカプラザ)
1995年 アメリカンウエスト~ミシシッピの西 (コニカプラザ)
1997年 ヤタヘェ 北米最大の先住民、ナバホの20年 (コニカプラザ)
2004年 足尾 (ニコンサロン)
2004年 DESERTSCAPE (コニカミノルタ)
2006年 WATERSCAPE (コニカミノルタ)
2009年 白亜紀の海 (ニコンサロン)
2013年 DESERTSCAPE-2 (コニカミノルタ)
2013年 白亜紀の海2 (ニコンサロン)
2015年 日系アメリカ人強制収容所 (ニコンサロン)
ほか

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