日本写真の50年を辿る。「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」(東京都写真美術館)開幕、作品がつなぐ時代と表現
壁一面を埋め尽くす写真。その作品群を前にして、日本写真の半世紀がこの空間に凝縮されているように感じた。
東京都写真美術館で開催中の「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」。
賞が第50回を迎えたことを記念する本展の内覧会に参加した。
会場では、受賞の時系列に沿って作品が並んでいる。テーマによって作品を組み合わせるのではなく、年代を追って見ていく構成である。一人ひとりの表現に目を留めながら、次の作品へ、次の年代へと進む。そのなかで、写真家たちが何を見つめ、どのような表現が評価されてきたのか、その移り変わりにも触れることができる。
「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」の展示風景
壁一面に並ぶ作品を眺めていると、50年という時間の長さと、その間に生まれた表現の幅広さを実感する。知っている作品も、初めて出会う作品も、同じ時間の流れのなかに並んでいた。
「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」の展示風景
木村伊兵衛写真賞とは
戦前、戦後を通じ日本の写真界に大きな貢献をはたした写真家、木村伊兵衛(1901~1974年)の業績を記念して制定された写真賞です。
授賞対象は毎年1月から12月までの間、写真の制作・発表活動で優れた成果をあげた新人。活動は写真集、展示、雑誌など広く一般に発表されたもので、写真表現のあらゆる分野を含みます。正賞は賞状と賞牌、副賞に100万円が贈られます。1975年に朝日新聞社によって創設、「アサヒカメラ」が運営事務局を担い、2008年、朝日新聞出版発足後に同社と朝日新聞社との共催になりました。2020年の「アサヒカメラ」休刊に伴い、現在は、朝日新聞出版マーケティング部に運営事務局が置かれています
写真家の言葉と作品がつながる
私は今回、会場で上映されるインタビュー映像の制作に携わり、10人の受賞写真家の言葉に触れる機会があった。
会場では、日本写真芸術専門学校が制作したインタビュー動画「木村伊兵衛写真賞とわたし」が上映されている
※(NEWS)本校制作のインタビュー動画「木村伊兵衛写真賞とわたし」が東京都写真美術館で上映中|日本写真芸術専門学校
作品が生まれた背景や、写真家それぞれの写真に対する考え方。それぞれの話から、その時代に何が重視され、写真家たちがどこへ視線を向けていたのか、その一端を知ることができた。さらに、いま何を考え、制作に向き合っているのかにも触れることができた。
その言葉を思い返しながら展示室を歩くと、インタビューで触れた写真家たちの年代と年代の間を補うように、作品が現れる。話を聞いた写真家の前後に、どのような作品が生まれていたのか。個別に知っていたことが、作品を通して少しずつ結びついていく。
「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」の展示風景
断片的に知っていた日本写真の軌跡に、点と点を結ぶ線が引かれていくような感覚だった。
もちろん、年代順に並んでいるからといって、作品同士が直接つながっているわけではない。それでも、続けて見ることで気づく視点の違いや、共通する関心がある。個々の写真家を知ることとはまた違った、写真の見方ができる展示だと感じた。
写真の立ち位置が変わった50年
内覧会では、第1回受賞者である北井一夫さんの挨拶があり、その話も印象に残った。
北井さんは、受賞当時、写真は主に雑誌に掲載する原稿としての役割を担い、芸術とは見なされていなかったこと、そして時代とともにその立ち位置が変わり、いまでは芸術と言えるものになった、という趣旨の話をしていた。50年という時間に起きた変化の大きさを振り返る話だった。
左:第1回(1975年度)受賞者 北井一夫さん「村へ」が掲載されたアサヒカメラ 右:第6回(1980年度)受賞者 江成常夫さん「花嫁のアメリカ」が掲載されたアサヒカメラ
変わってきたのは、被写体や撮り方だけではない。写真がどこで発表され、どのように受け止められるのか。写真そのものの立ち位置も、この半世紀の間に変化してきたのである。
その話を聞いてから作品を眺めると、年代順に並ぶ展示にも、より意味が感じられた。目の前にある表現と、その背景にある時代。その両方に思いを巡らせながら見ていくことができる。
「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」の展示風景
知っている一枚を入口に
この「点と点がつながる」という感覚は、映像制作に携わった私だけのものではないかもしれない。
好きな写真家や、写真集で見た作品、どこかで目にしたことのある一枚。それを入口に、その前後に並ぶ作品へも目を向けてみる。すると、知っている作品の見え方が変わったり、これまで知らなかった写真家の表現に心を引かれたりするのではないだろうか。
「木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展」の展示風景
すべての写真家や作品を、あらかじめ知っておく必要はない。気になる写真の前で足を止め、そこから少しずつ視線を広げていく。半世紀の作品が並ぶ会場で、自分のなかにある写真の記憶も、新たな出会いとともにつながっていくかもしれない。
『木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展』は11月23日(月・祝)まで
展覧会情報
木村伊兵衛写真賞 第50回記念写真展
2026.10.31(土)— 11.23(月・祝)
開催期間:2026年10月31日(土) ~ 11月23日(月・祝)
会場:東京都写真美術館 地下1階展示室(東京都目黒区三田1-13-3恵比寿ガーデンプレイス内)
休館日:毎週月曜日(ただし11月23日[月]は開館)
料金:一般1,200円(960円)、学生・65歳以上1,000円(800円)、高校生800円(640円)
※( )は有料入場者20名以上の団体料金。中学生以下および障害者手帳をお持ちの方とその介護者(2名まで)は無料。
TOPMUSEUM PASSPORT 2026 提示者は割引。
※シルバーデー、家族ふれあいの日、減免団体への教育活動無料は対象外。
※11月5日[木]~23日[月・祝]の木・金曜日17 時~20 時は夜間特別開館による割引料金(学生・高校生無料、一般・65歳以上は団体料金。学生証・年齢が確認できるものをご提示ください。)
取材協力:東京都写真美術館
取材撮影/PicoN!編集部 黒田
編集/PicoN!編集部 市村
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