PicoN!な読書案内 vol.7 ― 『香山哲のプロジェクト発酵記』
この連載では、出版業界に携わるライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。今回は、個性あるイラストが魅力的な漫画家さんによる、一風変わったハウツー本をご紹介。
『香山哲のプロジェクト発酵記』
香山哲・著(イースト・プレス)
2023年を迎え、今年の目標や計画を立てた人も多いのではないだろうか。今回紹介するのは、そんな新年に気持ち新たに読むのにぴったりな一冊。ベルリン在住の漫画家・香山哲さんによる、プロジェクトを無理なく進めるための指南書=「プロジェクト発酵記」である。
香山哲さんプロフィール
1982年兵庫県生まれ。ドイツ・ベルリン在住。漫画家、イラストレーター、ゲームクリエイター、作家など多方面で活躍。近著『ベルリンうわの空』が文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品、宝島社「このマンガがすごい!2021」選出。
本書は、香山氏がマンガ連載の企画を検討していた際に発案したものだ。マンガ連載をプロジェクト化し、そのための事前準備や心構え・考え方を紐解いてまとめた内容となっている。
概要だけを聞くと、マンガ制作を目指している人向けに聞こえるが、企業勤めをしている人にとっても参考になる点が沢山ある。
というのも、香山氏は日常のあらゆる出来事がプロジェクトになりうると考えているからだ。例えばお昼に自炊をする、といったちょっとしたチャレンジから、学校の課題をやる、友達と旅行する、習い事を始める、新しいバイト先を探す…など、自分が計画して行動する全ての物事がプロジェクトとして考えられる。あらゆる人に向けて書かれたのが本書だ。
プロジェクトを円滑に進めていくための様々なコツが書かれている本書だが、一般的にありがちなビジネス書のフレームワークとも一味違う。特徴は大きく3つ。
①ゲームブックのような見た目
香山さんの個性的で可愛いイラストで構成される本書。ストーリーを伝えるマンガのページもあれば、図解のようなページもあり、デフォルメされたキャラクターが多数登場する、独特の世界観が見て楽しい。全ページ二色刷りというのもワクワクする。
②自分の気持ちに向き合いながら作るプロジェクト計画書
「プロジェクト発酵記」というタイトル通り、プロジェクトの事前準備をじっくりしていくのが本書の趣旨だ。そのためには、焦らずに自分の心にしっかりと向き合うことが最重要である。かしこまらずに、自分がワクワクする方向へと自然と導いてくれるのは香山氏の穏やかな心の在り方によるものだろう。
③想像力を広げていくためのアイデアが多数収録
漫画家さんならではの企画に対する思考法が随所に散りばめられている。例えば、「常にアイデアメモを持っておき、見返してアイデアをブラッシュアップさせていく」「信頼できる人に企画のいいところや悪いところをヒアリングする」といった具合だ。自由に捉えてよい内容と、実用的な考え方のバランスが非常に良い。
本書を活用し、筆者も実際に自身が携わっているプロジェクトを整理してみた。
自分の好き嫌いや得意なこと・苦手なことを整理しながら自由にアイデアを広げる作業はとても楽しく、事前準備として自分なりのルールや判断基準が見つけられると、取り組むプロジェクトにこれまで以上に真摯に、前向きになれると感じた。
やる気に溢れている人だけではなく、悩んでいるひとにも本書はおすすめだ。クリエイティブなことを何かやりたいけどなかなか形にならない人、人との仕事にストレスを抱えてしまう人たちが、少し楽になるようなヒントが沢山詰まっている。
今年のポジティブなスタートが切れますように。
文・写真:ライター中尾