「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑧
大竹 伸朗作『モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像 』について
今回、第8話で初めて日本の現代美術作家の紹介です。 大竹 伸朗(Shinro Ohtake)の作品についてです。
大竹 伸朗氏は、1955年(昭和30年)東京生まれの日本人で、現在すでに国際的に高い評価を得ているまさに現役バリバリのアーチストです。
こんにちは、専門学校日本デザイナー学院 東京校講師の原 広信(はらひろのぶ)です。
実は、東京都千代田区の地下鉄竹橋駅の近くにあります「東京国立近代美術館」で現在開催中の『大竹伸朗展』に出かけましたので、その展示作品を紹介したいと思います。
まずはこちらの作品をご覧いただきます。
どう感じましたでしょうか?
タイトルも併せて「何とまぁ、ごちゃごちゃな!」といった声も聞こえてきそうですが、目録によるこの作品は ”油彩、砂、大理石、オイルステック、インク、カラーインク、鉛筆、木炭、印刷物、インクジェットプリント、シルクスクリーンプリント、寒冷紗、麻布、綿糸、写真用フィルム、雑誌用紙、厚紙、薄紙、梱包用紙、和紙、梱包用テープ、バルサ材/木”といった素材が使われています。
※下線部引用:大竹伸朗展目録
このように様々な画材と素材が使われていて、この作品はレリーフ状(平面ではなく半立体)の形状をしています。
大竹伸朗氏の作品として代表的なのが、コラージュと呼ばれる手法です。
「コラージュ(仏・英:Collage)」は、『糊付け』を意味するフランス語で画面上に様々なものを貼り付けて制作しています。
※下線部引用:This is Media
コラージュの作業のその上に油絵の具がながれ滴っていたり、また素材が何層にも重なっていたりと、作者の創作意欲と作品に存在感が画像からもあふれています。
大竹氏の作品にみられる特徴のひとつとして、このようなイメージの重層性があります。
続けて、こちら「スクラップブック」というタイトルの作品です。
この作品は、もともと本かあるいはノートの表・裏表紙とページごとに見開きでいろんな切り抜きや絵の具の痕跡とドローイングが濃密に集積している立体作品で、この重さは27.2kgだそうです。
「9歳頃につくったコラージュで無意識にやっていたことがいまにもつながっている…無意識でやってたことのほうが本質的な行為なんじゃ無いかっていう思いは強い。」
※引用元:美術手帖HP
さて、ここでこのアーチストを取り巻いていた美術の状況を振り返ります。
1955年、東京都生まれの大竹 伸朗氏が幼少期にアートへの歩みを始めていく頃でもある1960年台の欧米では、表現を極限にまで単純化・簡素化する傾向である『ミニマニズム(Minimalism)』・ミニマルアート(Minimal Art)が勃興している時代でした。
”ミニマリズムは、1950年代後期~60年代前半に出現し、美術、デザイン、音楽の領域で、非本質的なフォルム、特徴、概念を排して、欠くことのできない本質的なものを表現する傾向である。”
引用元:美術手帖HP ART WIKI
たとえばミニマルアートの作品例としては、こちら
壁面に四角い箱型が縦に連続した形態のものとして展示してあります。
このようにミニマルアートは作品から装飾的であったり、説明的な部分を排除して成立させようとするものでした。
そしてその後、1970年台になるとその正反対の動きとして、世界的なうねりを生んだのが、『新表現主義(Neo-expressionism)』という美術運動です。
その代表格のひとりがアメリカの画家、NYブルックリン生まれのジャン=ミシェル・バスキア (Jean-Michel Baquiat)です。
ミニマリズムからの解放のように自由闊達に絵筆を使って描くバスキアの作品に美術界が注目したのです。
奇しくも日本の経済も空前のバブル期1986年~1991年(昭和61年~平成3年)の最中の1988年に、大竹氏は愛媛県の宇和島に居を移して、創造意欲の猛烈さで、これでもかこれでもかと、導入されていくあらゆる表現手法で作品を制作し続けていきます。
この大きさと表現に圧倒されますが、素材を貼っては、剥がすという行為の痕跡が特徴の作品です。
何かのコンセプトのもとで作るというより、ある種の意思を介在せずに自律的に作られ、イメージが出現していくことのようです。
大竹氏は「もともと自分がコンセプトを打ち立ててものを作るタイプではない…」と語り、また「今日は昨日とは絶対に違うんだっていう思いがある…」とも。
※引用元:美術手帖HP
壁面に展示されたものだけでなく、立体作品も多く展示されています。
抽象性と具象性を際限なく行き交っている
会場でこの作品に遭遇した私は鑑賞すると言うより、目の前に置かれている物体の周囲を回りながら、この作家が放つ熱量を受け止めきれず、細部を観察している自分がいるのです。
さてさて、ここで今回の1作です。
この画像は、ドイツ・カッセル(Kassel)で5年に1回開催される現代アートの国際的な美術展、2012年の「ドキュメンタ(dOCUMENTA)13」に出品された作品です。
下線部引用元:森美術館公式ブログ
屋外に展示されいますね。作品名にスクラップ小屋とありますから、作品の内部も覗き見れそうです。「モンシェリー」というカタカナの看板が印象的です。
その隣にもキャンピングカーのようなタイヤのついたもの作品の一部です。
なんと!この作品が今回の東京国立近代美術館にも展示されています。
この展覧会のチラシには「あらゆるものが画材である」との言葉が載せられていて、まさに大竹伸朗氏の作品を象徴する言葉だと感じます。
作品のタイトル「モンシェリー」の看板の灯りが怪しげですよね。来場者は皆さんこの光に誘われ近づいて、作品内を覗き込んでいました。
「自画像」という名を持つ作品の内部の何物かに吸い寄せられて…
さあ、あなたもぜひこの大竹ワールドへの探検に出かけてみませんか!
展覧会情報
大竹伸朗展
会 期:2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)
場 所:東京国立近代美術館(東京・千代田区丸の内公園)
公式HP:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/shinro-ohtake/
学生証の提示で団体料金でのチケット購入が可能です。