建築×インテリアデザイン 変わりゆく渋谷の街 渋谷ヒカリエ

変わりゆく渋谷の街を建築やインテリアデザインの視点でお届けします。第2回の今回は渋谷駅東口に位置する「渋谷ヒカリエ」についてご紹介します。

渋谷ヒカリエ

2005年に始まった渋谷駅周辺の「都市再生特別措置法」に基づく「都市再生緊急整備地域」の再開発。そのトップバッターとして、2012年に開業したのが「渋谷ヒカリエ」です。

都市再生特別措置法」とは、急速な情報化、国際化、少子高齢化などの社会経済情勢の変化に対して日本の都市の対応が十分ではなく、社会の情勢の変化に対応した都市機能の高度化及び都市の居住環境の向上を図るため、都市再生の基本方針等まとめた法律です。

また「都市再生緊急整備地域」とは、都市の再生の拠点として、都市開発事業等を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として政令で指定された地域になります。

この二つに指定され、開発が急がれたのには理由があります。

渋谷という地形

そもそも渋谷の街は、渋谷村(しぶたにむら)という谷の地形で、その中心に駅が出来たため、周囲を山が囲んでいた。そのため道玄坂や宮益坂、桜ヶ丘といった坂に囲まれている地形となっています。

そこに次々高低差の違う鉄道が乗り入れたため、立体的に折り重なるように極めて複雑に接続し、国道246号線と首都高速がすぐ脇を通るというアクロバティックな状況になっています。

また、駅周辺の建物が出来た当時、コンクリートの建物は50年持つと言われ建てられましたが、当時の技術水準で建築された建物は想定以上に劣化が進み、度重なる補修をして、なんとか使っているような状況が続いていたようです。1980年代バブルの絶頂期には、わずか5年で渋谷駅周辺の建物の1/4が建て替わったと言われているにも関わらず、このような複雑な条件が重なり、継ぎ接ぎだらけのまま延命措置のような期間が長く続き開発が遅れていました。

グッドデザイン賞

話は「渋谷ヒカリエ」にもどります。行政が後押し開発に漕ぎ着けたこの高層ビルは、地上34階、地下4階、高さ 約182.5m、敷地面積 約9,640m2、延床面積 約144,000m2の2009年に着工し、2012年に完成「グッドデザイン賞」を受賞しました。受賞の概要には以下のように書かれています。

「立体都市の創出」
渋谷ヒカリエは、オフィス、約2000席のミュージカル演目を中心に行う劇場、1000㎡・300㎡の2つのホールからなるイベントホール、クリエイティブスペース、飲食、商業等の施設で構成されています。業務・文化・商業が混在し、多様性に富み、賑わい溢れる渋谷の街が、縦に積みあかがったものと考えました。建物は、街路をエレベーターやエスカレーターに置き換え、建物のファサードにみられるように用途毎のブロックが積み上がり、ブロックの間は共用のロビー空間(交差点)や屋上庭園とし、異分野の人々かが交流し、シナジーを生み出し、それを街に発信することで賑わいを創出する場となることを目指しています。※グッドデザインアワードのホームページから一部抜粋しています。

少し補足すると、商業施設としては地下3階から地上5階までの「ShinQs(シンクス)」や「東横のれん街」などターミナル駅らしく、乗り換えの移動に便利な動線に食品売り場やアパレルブランドの店舗が並び、6階のカフェ、7階のダイニングフロアは女性プロデューサーにより選ばれたこだわりのある人気店が集まり、にぎわっています。また上層階のオフィスは勢いのあるIT企業が複数入居して話題となりました。

渋谷ヒカリエでは多くの場所で無線公衆LAN設備が設置されており、サービスが利用できます。こんな当たり前のことをあえて掲げているのには、外国人観光客の不満調査でWIFIに関することが多いということらしいです。

少しマニアックな建築の話になりますが、高低差12m、1日に5万人の通行人が行き交う主要通路のため工事中も通路を閉鎖することはできず、地下3 – 4階が駅の吹き抜け部分とつながって、駅構内への換気塔の役割を担うため、工事の制約が厳しかったそうです。そのため地下部と地上部、中層部と高層部とを同時に施工する多段施工方式を採用し、重さ260トンもある大型の梁4台をリフトアップするという、橋などで行うダイナミックな工法が採用されました。

開業から10年が経過し渋谷のランドマークとなった「渋谷ヒカリエ」にみなさんも足を運んでみてはいかがでしょうか。

文・角 範昭
専門学校日本デザイナー学院90年卒。97年有限会社空デザイン開業。
小さな街の飲食店から大型フィットネスクラブまで現在までに1300店舗以上を手掛ける。

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