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メイキング・オブ・ハリー・ポッター ー 美術セットの裏側
空間デザイナー・張富凱先生が、話題の「ハリー・ポッター」スポットに潜入! デザインの見どころや設計の妙を、専門家の視点から解説します。
2023年6月16日にとしまえん跡地にオープンした「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 ‒ メイキング・オブ・ハリー・ポッター」。世界的大ヒット映画『ハリー・ポッター』の、ウォークスルー方式体験型エンターテイメント施設です。
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「メイキング・オブ・ハリーポッター」外観
『ハリー・ポッター』の屋内型施設としてはアジアでは初で、映画『ハリー・ポッター』シリーズや『ファンタスティック・ビースト』シリーズの制作舞台裏に足を踏み入れ、2つの映画の世界観をより深く知ることができます。セットや小道具、豪華な衣装、魔法動物などを展示するほか、『ハリー・ポッター」の世界により没入できるインタラクティブな体験も可能です。
大阪USJの「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター™」がアトラクションメインで、映画に似せた「完成形」を見せる施設だとしたら、「メイキング・オブ・ハリーポッター」は映画が出来上がるまでの途中経過も紹介しつつ、実際使われていた衣装なども展示してある施設である、というのが大きな違いでしょう。
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「メイキング・オブ・ハリー・ポッター」内観
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ホグワーツの大広間(みんなで食事をするおなじみの場所)
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ロンドン魔法省の暖炉(作中で「フルーパウダー」を使って出入りする)
「ハリー・ポッター」の舞台であるヨーロッパは石の文化と言われ、数百年の歴史のある重厚な石造り建造物がいっぱい残っています。ハリーポッターの世界に出てくる建物も、それらを参考してつくられたということです。ちなみにホグワーツ城のモデルはオクスフォードやケンブリッジといった英国の名門大学、そして細部のデザインは、ダラム大聖堂やアニック城という建物を参考にしているそうです。
じつは映画に使う建物は本物の石でつくられてはいません。納期や廃棄のことを考慮し、石造りに見える建物は、主に石膏でできています。ホグワーツの大広間から一歩出ると、ガッチリ組まれた単管と木材フレームに石膏が載っているのが見えます。職人さんたちの腕により、年月が重なった風合いがうまく再現された美術セット(※1)なんです。
(※1)木材、石材、金属、ファブリックなどの素材に掘削、研磨、燃焼、塗装など加工をし、わざと汚したり劣化させたりし、古い風合いを出す工程を「エイジング」といいます。一般的なやり方もあればそれぞれ独自な手法で行うこともあります。
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ホグワーツ大広間の壁の裏側
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ホグワーツ大広間の裏側
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レンガ、石、金属、木材、塗装など、エイジングによる古びたテクスチャの再現
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ホグワーツ大広間の床は重歩行への耐久性を考えて、本物の石(ヨーロッパでよく使われているヨークストーン)で舗装されている。
また映画に登場するロンドン魔法省のセットはシリーズ最大級で、美術チームがイギリス各地をロケしつくり上げた大作です。例えばオフィス棟はロンドンのトッテナム・コート通りに建つヴィクトリア調の建物を参考にし、緑色のタイルはロンドンのもっとも古い駅をリサーチしてデザインしたもの。
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ロンドン魔法省のオフィス棟
磁器のように見えるツルツルのタイルですが、素材は中密度のファイバーボード(※2)。タイルの形に切って塗料を重ねづけすることでツヤを出しています。
(※2)ファイバーボード……木材やそのほかの植物繊維を主原料とし、いったん繊維化してから成形した板状製品の総称。JIS ( 日本産業規格) では密度に応じ、インシュレーションファイバーボード、メディアム・デンシティファイバーボード、ハードファイバーボードの3種類に分類されます。本文中の「中密度」のファイバーボードは、メディアム・デンシティファイバーボード(MDF)と呼ばれるものです。
他のエリアでも映画が完成するまでの色々な工程が紹介されていましたが、今回は建物とインテリアを中心に記事を書かせてもらいました。製作の裏側がわかると違う映画の楽しみ方ができて、さらにものづくり意欲も湧きますね。とてもいいスタジオツアーだと思いますので、ぜひみなさんも足を運んでみてください。
張富凱
空間デザイン事務所爆団に所属。これまでの主な仕事に「TOKYOゲームショー2022 YGG JAPANブース」、「VR体験アミューズメント施設 V-World AREA in E-ZO福岡」、「ONE PIECE 麦わらストア」や「TOKYO MOTOR SHOW 本田技研工業ブース」などに携わる。いつかは世界で通用するデザイナーになり、自分のデザインが世に知られるようになる日を夢見て日々勉強中。
有限会社爆団
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