実はブサカワ!?光と闇のムーミンアートの魅力

文・いとうみちろう(イラストレーター)

今回は誰もが知っている人気キャラクター、ムーミンを紹介しその人気の理由を考察します。

ムーミンを知らないという人はほぼいないと思いますが、日本人のムーミン認知率はなんと世界一の98%だそうです。(参考記事:MOOMIN|(118)ムーミンを知ってる人が一番多い国
とはいえ、ムーミンのアニメを見たことがある人、本を読んだことがある人、海外の新聞に掲載されていた漫画を読んだことがある人・・・と聞いていくと、だんだんと数が少なくなりそうです。意外と知られていない部分も多いのでは?ということで簡単に作品の紹介をします。

Q:ムーミン作品は多岐にわたるが、どの作品が先だったのでしょう・・・

a. アニメに決まっている!

b. 小説ですわ。

c. 絵本だろ?

d. 漫画だと思うなぁ。

答えは・・・!

ムーミンの第一作は1945年に出版された小説!

出典:Tove Jansson|The Moomins ©Moomin Characters™

作者はトーベ・ヤンソン(1914-2001)で、画家でありイラストレーターでもある彼女が執筆したシリーズ9冊(8作品+絶版からの復刻1)の小説がムーミンの原作として有名です。また新聞に連載されたマンガや絵本も存在しており、その作品が世界的に評価されるにしたがってアニメや関連商品などさまざまなメディアに展開されるようになりました。また新聞連載のマンガ等、作品によっては弟のラルス・ヤンソンが共同制作者として関わり、ビジネスのサポートもしていました。

出典:Tove Jansson|Press Kitより トーベ・ヤンソンと弟のラルス・ヤンソン ©Moomin Characters™

 

ムーミンがこれほどに愛される理由は?

さて、そんなムーミンが愛される理由はたくさんありすぎて語り切れないのですが、ここでは

1. キャラクターの魅力

2. アニメ化と関連商品の影響

3. 絵の魅力

・・・の3点から考察していきます。

1. キャラクターの魅力

出典:Tove Jansson|Press Kitより トーベ・ヤンソンにより自画像 ©Moomin Characters™

ムーミンの魅力の一つは、なんといってもその素晴らしいキャラクター達です。クールで自由人のスナフキンや、気が強くて好奇心旺盛なリトルミイはいくつかの投票では主人公のムーミン以上に人気があるそうですし、不思議で奇妙なニョロニョロ、おおらかで愛情深いムーミンママ、頼もしい冒険好きでありながらちょくちょく家族を振り回すことがあるムーミンパパ・・・あるいは飛行おにやモランなど、ミステリアスで少し不気味な存在も登場します。そのどれもが強烈な個性を持っており、キャラクター同士の絶妙な距離感もまた作品の良さの一つです。

ムーミンのキャラクターはデザイン的にもとても魅力的で、アニメ版ムーミンの声優を務めた高山みなみさん(名探偵コナン君の声優)によるとムーミンが愛されている理由は「形ですね、フォルムに勝てるものないでしょ。丸い安定感。丸さというか柔らかさというか、世界共通で安心するものなんじゃないですか」とのことです。(参考記事:報知新聞社|高山みなみ、ムーミンが愛されている理由は形「丸い安定感がある」8年ぶりにムーミン演じる)

そういわれて改めてムーミンを見てみると、なるほど2~3頭身程度にディフォルメされた丸みのある形をしています。これはピカチュウやミッフィー等とも共通する特徴ですが、誰からも愛される、カワイイ、赤ちゃん比率であるベビーシェマとも関連がありそうです(ベビーシェマについてはトシダナルホ先生の記事を見てね。)

さて、そんなムーミンですが1940年代の初期の作品の頃は、私たちがよく知る現在のムーミンの姿とは若干異なる姿をしています。

出典:Tove Jansson|Life in an artist’s studio ©Moomin Characters™

これについては面白い話があって、1952年の新聞の作者へのインタビュー記事とのことですが以下の内容があります。

『1940年代の戦時中は失意のどん底で、とうとうおとぎ話を書き始めました。それは現実に背を向けてつくられた世界にひたるという一種の逃避で、そのことがすこしばかり気が引けたのでしょう。ムーミン谷の住人たちを絵にするとき、いわば弁解するかのように、みっともない姿に描いたのです』(筑摩書房|冨原眞弓(2014),『ムーミンを読む』)※少しだけ中略)

戦時中という時代にあってムーミンの物語は現実からの逃避からうまれたこと、そしてそのうしろめたさからムーミンたちはあえて「みっともなく」描かれているというのです。直球ストレートのど真ん中・・・をあえて外す変化球。醜さ、みっともなさという負の要素をあえて少し押し出すことでそこに何とも言えない奥深い魅力が加味されたという、なんだか今でいうところのブサイクでカワイイ、「ブサカワ」のような話です。

もっとも、その後ムーミンのデザインは性格も含め丸みを帯び、より洗練され、私たちがよく知る姿になっていきました。しかしながら誕生当初における、あえて少しみっともなく描くという、絶妙な匙加減がムーミンのキャラクターの魅力の一つとしてあるように感じています。

2. アニメ化と関連商品の影響

我が国におけるムーミン人気の理由にはアニメ化の影響が特に大きかったようです。1960年代後半・1970年代に放映された虫プロダクション等が制作した「昭和版」のムーミンアニメ、こちらは私の親世代がよく見て知っているムーミンです。スナフキンがギターを弾いていたり原作と違う部分も多いですが、多くの人がこれをきっかけにムーミンを知るようになりました。
もう一つは「平成版」のアニメ、「楽しいムーミン一家」です。これは筆者の子供時代にど真ん中な作品で、より原作の世界観が取り入れられています。もっとも現在日本ではこの「楽しいムーミン一家」を地上波やサブスク等で見ることはできないらしく、少し残念な気もしますが、なぜか公式のインスタで、わりとよく「楽しいムーミン一家」の引用映像が載せられていたりします。

誰もが目にするような地上波のアニメ等で見ることはできませんが、CGアニメ、ゲーム、劇場作品等、さまざまなメディア展開は積極的に行われています。(ムーミンアニメーションの歴史についてもっと知りたい人は公式ブログの記事を見てね。)なにより、ムーミンのさまざまな関連商品はとても身近な存在で、現在では原作や映像作品は見たことがなくても、豊富なキャラクター商品によってムーミンを知っているという人も多い印象です。

ムーミンのオフィシャルユーチューブチャンネル(英語)では、ムーミンマグカップ専門のアーティストとのインタビューまで見れますよ!

どんな関連商品にもステキにおさまってしまうようなキャラクターの素晴らしさについては先にお伝えしたとおりでありますが、次はムーミンの絵、そのものがもつ魅力について見ていきましょう。

3. 絵の魅力

ムーミンを生み出した作者のトーベ・ヤンソンは、すぐれた画家・イラストレーターであり、そのキャリアをスタートさせたのはなんと14歳のときです。商業誌のイラスト、油絵、水彩画、新聞の連載マンガなども手掛け、そもそも自らを作家というよりは画家と自認していたようです。

出典:Tove Jansson|Press Kitより トーベ・ヤンソンの作業場 ©Moomin Characters™

ムーミンには美しい色彩の情緒性あふれる水彩画もありますが、以下の画像のような白黒のはっきりした線画は当時の印刷技術において、絵の魅力を一層伝えやすかったというメリットがあったようです。

出典:Tove Jansson|The Moomins ©Moomin Characters™

幾重にもなる線画とべた塗りの調和が生み出す光と暗闇、想像を掻き立てる余白、ユニークなキャラクター、そして愛らしい丸みをおびた姿をした主人公のムーミン。このコントラストが織りなす絵の魅力は、幸せな子供時代と恐怖や闇、そこから冒険が展開するムーミンの物語の縮図のようです。
なによりこのいくらかの闇がある世界観が気になるところです。トーベ氏はインタビュー等でもよく「安心と恐怖」や「怖がらせること」に触れ、直接的に「暗闇」について語ることもあり(国際アンデルセン賞受賞の際のスピーチ等)、彼女の内面世界を表現するうえで暗闇や恐怖が重要なものであったことが伺えます。

児童書的なムーミンの可愛さ、安心感と、一方の恐怖、暗闇、冒険といった2面性の調和。キャラクターの造形にみるシンプルさと、複雑に絡み合うペンタッチ。光と闇、白と黒のハーモニー、そんな画家としての作者の力がいかんなく発揮された素晴らしい挿絵の数々が、ムーミンの魅力を一層高めていると感じています。

出典:Tove Jansson|The Moomins take on the world ©Moomin Characters™

おわりに

さて、ここまでムーミンの人気の秘密について

1. キャラがステキ!

2. アニメやグッズがステキ!

3. 絵がステキ!!

というような切り口でお話ししました。しかも絵に闇があってステキ!とかキャラが実はブサカワの要素があってステキ!というような内容もありました。原作の小説などは子供が読んで面白いのはもちろんですが、大人になってから読むと多くの気づきがあって一層楽しめます。あと、今回は詳しく扱えませんでしたが、作者のトーベ・ヤンソンが実に興味深い面白い人物です。本稿を通じて、かつて目にしたムーミンを思い出したり、少しでも興味をもつきっかけになれば幸いです。

(最後に、フィンランドの公式会社Yleのアーカイブ動画で、トーベ・ヤンソンご本人がムーミンを描いているところが写している動画リンクです!10:59から13:22あたりがちょうど絵を描いているところです!)

(参考)
・冨原眞弓(2014),『ムーミンを読む』,筑摩書房
MOOMIN
TOVE JANSSON
・Moomin Official Youtube Channel|30 years of working with Moomin mugs I Tove Slotte
・Yle|Tove and friends 1970

NDS講師 いとうみちろう
イラストレーター。児童書や絵本、教科書や雑誌、アプリ、カード、舞台美術などさまざまな分野を手掛ける。教育関係の仕事の傍らフリーランスとして活動をはじめ、これまでカルチャーセンターや美術学校などで、小学生から高齢者まで幅広い年代を対象に講師として指導。
HP:https://www.michiro-ito.com/

Instagram @michiroom

X(Twitter) @ito3am

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