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「漂白の写真家ベルナール・プロス」今月の写真集/美術専門古書店 SO BOOKSの推薦一冊。vol.4

2019年に惜しくもこの世を去ったロバート・フランクが監督として手掛けたロード・ムーヴィーCandy Mountain (1987)は、彼の映画で最も多額のコストを費やし製作されながらも、自身最も気に入らない作品だったそう。主人公の若い青年の希求そして幻滅の旅は、大陸を縦断しつつ喧騒に湧く50年代アメリカのB面を切り取った「The Americans」そのものな感だし、その後名声から逃れ暗い大西洋を望むノヴァ・スコシアへと向かい、そこに静けさを見出した彼の境遇は、映画でのキーファクターだったギター職人のようでもあった。

そんなロバート・フランクに似た波長を持つ写真家のひとりに、放浪写真家とよく呼称されるフランスの写真家ベルナール・プロスがいる。思い出せないほど前に買取で入荷したものの、在庫していたことを忘れてたこのプロスの写真集、実際彼の写真集は決まって地味だ。開くと冒頭に、旅の車窓越しに撮したと思しきひどく朧げな、ただ印象的なスナップがあった。プロスの写真は移動しながらのブレたものが多いから、ああプロスらしい写真だと思った。彼は弱冠13歳(1958)の頃、父とともにサハラ砂漠を旅したというエピソードは他で読んで知っていた。「Alger, 1958」と題されたこの写真がその時のもののようだ。でも何故かこのひどく構図不均衡な写真に不穏なものを感じる。上空にうっすらと雲、いや雲の感じじゃないな煙か?でもなぜ建物の上空に煙…。完全に興味本位で、写っているイスラム建築の形状とタイトルの「Alger」を手がかりにググってみる。どうもこの建物はアルジェリアの首都アルジェ中心部の「La Grande Poste d’Alger」のようだ。調子に乗って更に「1958年 / アルジェリア」で検索。するとトップ表示だった。

【アルジェリア戦争(フランスからの独立戦争1954-62)】

しかも戦闘は1958年から1960年半ばまでが最も激しかったとある。ロバート・キャパじゃあるまいし何故そんなときに旅を?しかも親子で?と訝るも、もうこの淡いセピア色をした写真からそれ以上のことは分からなかった。

ちょうど同じ50年代に異邦人として見知らぬ地を旅しつつ、写真史に輝く私的ドキュメンタリーの傑作を残し、その後写真に幻滅したかのように映画制作へと向かったロバート・フランクと、一方で、この13歳の頃の旅と写真の(傍目に危険な)原体験が幸福に作用したのかその後も漂白の旅を続けたプロス。この両者の差異に思いを馳せつつも、いずれにしろこれだけは言える。写真は常に旅と結びついている。

 

(本記事はLula Japan no.13 2000年秋冬掲載のエッセイに加筆修正・転載したものとなります。)

 

文・ 小笠原郁夫(美術専門古書店 SO BOOKS)
2001年写真集/アート専門のネット書店書肆小笠原が前身。屋号をSO BOOKSと変え、代々木八幡に実店舗を構えて12年目に突入。本の買取もおこなっている。
https://sobooks.jp/

 

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