フォトグラファーのためのカラーマネージメント実践〈第3回〉
第1回、第2回はこちら
正しくプリントする
無駄なく、思い通りにプリントできるように
デジタル化が進展しても、フォトグラファーの表現手法としてプリントはまだまだ根強く、避けて通れないものといえます。モニターだとプリント以上に受け手の環境に見え方が依存するため、紙で表現することが必要だという考え方もあります。意図した色調をスムーズにプリントにできるように環境を整えましょう。
用紙もインクも、良いものになるほど高価になります。クリエイティブに必要なテストプリントなら仕方ないですが、無駄な失敗プリントを何枚も出すのはいろんな意味でしんどいですね。
今回の実践では、カラーマネージメントの結果として「モニターとプリンターの色が合う」ことを目指しています。
ただ、前提として、自発光しているモニターと反射光を見るプリントでは、色の見え方や質感が根本的に違います。そこは理解しておく必要があります。その上で、今の写真作品向けのインクジェットプリンターはかなり色域が広く、濃度も高いので、モニターで見える色調はわりと再現できます(もちろん、色のついた光源や透過光などは印刷色域外になりがちです)。
プリンターのメンテナンスは欠かさずに
まず大切なのは、プリンターのメンテナンスです。地味ですが欠かせません。いくらやっても色がおかしいと思っていたら、ヘッドが目詰まりしていたなんてこともあります。
定期的に動かすことや、プリント前のノズルチェック、必要に応じたクリーニング、これは必須です。
ドライバーの設定とプロファイルの設定が大切
プリントにあたっては、プリンタードライバーの設定と、ICCプロファイルの設定を正しく行うことがとにかく大切です。ここが正しくないと、どんなに環境を整備して、モニターを正しく調整できていても、モニター通りのプリントはできません。逆に言えば、環境とモニターが正しければ、あとはプリンターの設定次第なのです。
プリンタードライバーでは、使う用紙の種類の設定が重要です。インクの使い方がここで決まるので、実際に使う用紙通りに設定しましょう。また、プリント時の色補正の方法は、プリンタードライバーによるものとICCプロファイルによるものに分かれます。モニターに合わせるということはICCプロファイルでカラーマネージメントするということですので、プリンタードライバー上での補正や自動補正は使いません(使うとモニターには合いません)。特に、第三者に渡す色見本を作成するときは、プリンタードライバーでの色調整は避けましょう。後の工程で色合わせがしにくくなります。
ICCプロファイルは、プリンターと用紙の組み合わせの数だけ存在します。プリンターとメーカー純正用紙の組み合わせであれば、プリンタードライバーと一緒にICCプロファイルがインストールされるので、正しいものを選びましょう。純正でない用紙を使う場合、用紙メーカーが公開しているICCプロファイルをダウンロードして使います。これも機種・用紙別になっているので、間違えないように注意してください。欲しい組み合わせが公開されていない場合もあります。特に、プリンターが新しかったり、作品クオリティのプリントが想定されていないプリンターだったりすると、ICCプロファイルが用意されていないことがあります。そういう場合は、似た傾向を持つ組み合わせのプロファイルで代用することになりますが、その分精度は落ちます。
モニターに合ったプリントが出せます
今回は、純正でない写真用紙を使いましたが、メーカーが公開しているICCプロファイルを使い、正しく設定してプリントしました。
もちろん、プリント前にノズルチェックとクリーニングを実施しています。
ほぼモニターと同じ色調でプリントされました。
黒田さん「すごい! こんなピッタリになるものなんですね!」
そうなんです。モニターとプリントが合うわけがない、とお考えの方も少なくないようですが、そんなことはありません。必要な機材を導入して、最低限の環境を整備し、それを正しく扱えば、スタジオに作った即席のブースでも、色が合うのです。
「ColorEdgeを使っているのにプリントと色が合わない」とお困りのフォトグラファーに何人かお会いしたことがありますが、その場合、こんなことが原因でした。
- ColorNavigatorでキャリブレーションしていなかった(ソフトウェアキャリブレーションをしていた)
- 室内照明とモニターの色温度が合っていなかった
- プリント用紙の白色とモニターの白色が合っていなかった
- プリント時の設定が正しくなかった
ここまで読んでいただけた皆様には、もうおわかりですよね。
手軽にプリンタープロファイルを作成
次に、オリジナルのプリンタープロファイルを作成する手軽な方法をご紹介しておきます。こちらもカメラプロファイルと同様、精度の高いプロファイルを作成する場合はもっとたくさんのパッチを測定して、高価なソフトで行いますが、フォトグラファーにできる範囲として、colorchecker STUDIOで行う方法をご紹介します。
メーカーのICCプロファイルではどうも色が合わないとか、メーカーのICCプロファイルが用意されていないといった場合に試す価値があります。
ソフトに従ってチャートの1枚目をプリントし、パッチをスライドさせるようにして測ります。
その結果から2枚目のチャートが生成され、それをプリントし、また測ります。
これでプロファイルが保存されます。
作成したICCプロファイルでプリントしてみました。
モニターの見え方に近いものが出ましたが、用紙メーカーが提供しているICCプロファイルの方がモニターに合っていました。微妙な差ではありますが、それだけメーカー提供のICCプロファイルの精度が高いということでしょう。こういうケース、結構あります。
まずはメーカーが用意したICCプロファイルを使って、しっくりこない場合に自作してみる、というのが良いでしょう。基本的には、メーカーが提供しているプロファイルの方が高精度です。
なお、モニターとプリントの色合わせに際して、染料プリンターは色の安定に時間がかかるということにご注意ください。顔料プリンターであれば、プリント終了直後でもある程度の評価ができますが、染料の場合は色が落ち着くまでかなり時間がかかります。染料プリンターでプリントしてすぐにモニターと見比べて、合っていないと思って調整していると、時間とともに色が変わり、何が何だか分からなくなります。これはプロファイル作成のために色を測ることでも同じですから、染料プリンターでプロファイルを自作する場合は、数日がかりの作業になる覚悟が必要です。
[まとめ]
プリント前にプリンターのメンテナンスをしましょう。
ドライバーの設定とICCプロファイルの設定を正しくしましょう。
メーカーが公開しているプロファイルはわりと良くできています。
染料プリンターでのプリントは色の安定に時間がかかります。
文・芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
株式会社DNPメディア・アート所属、DNPグループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/
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機材協力:銀一株式会社
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