Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー vol.15

学校法人呉学園 日本写真芸術専門学校には、180日間でアジアを巡る海外フィールドワークを実施する、世界で唯一のカリキュラムを持つ「フォトフィールドワークゼミ」があります。

「少数民族」「貧困」「近代都市」「ポートレート」「アジアの子供たち」「壮大な自然」、、

《Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー》では、多様な文化があふれるアジアの国々で、それぞれのテーマを持って旅をしてきた卒業生に、思い出に残るエピソードをお伺いし紹介していきます。

少女との出会い

PFWゼミ7期生 井関 ほの香

あの旅から10年

当時の記憶は不思議なことに
写真を見るとタイムスリップしたかのように感情までも蘇ってくる

 

今でも思い出すのは
インドの児童養護施設で出会った
1人の少女、ラクシュミーとの出会いについて

想いを綴ります

 


 

6月の暑い日のこと、
マレーシアからインドに入国

初の南アジアの雰囲気に圧倒され
当時の自分は慣れない環境もあり
心の中は不安と楽しみで掻き乱れていた

目的地の児童養護施設は
インド東海岸に位置するアンドラプラデーシュ州のトゥニという街の郊外にある

引率の冨田先生と共に
チェンナイから寝台列車でトゥニまで向かい
乗車したことで安心し、すぐに眠りについた

朝になり、外の景色は荒野が広がっていて
まるで映画の中に世界に飛び込んだかのような
開放的な時間に、テンションがあがっていた

お昼過ぎに無事目的地の駅に到着し、
施設まではオートリキシャという
日本でいうタクシーのようなもので移動

街の中心地から離れている為
本当にたどり着くのだろうか…

と不安のなか、ドライバーさんを頼りに進み続け
道には牛やヤギ、豚がゆっくりと歩いていた

そんなこんなで見慣れない光景のなか
本当に辿り着いた…!

お世話になる施設はご夫婦で経営している

施設の中には両親が亡くなり引き取られた子供、
経済的理由で家族と一緒に暮らすことが困難になり、施設に来た子供
一人一人様々な過去があり、今を生きている

オーナーのラジャさんが
「遠い中よく来たね!待っていたよ」と
温かく迎えてくれた

約1週間、ここで生活を共にする

どんな日々が待っているか
すこし緊張しつつ、
子供たちのもとへ向かった

ちょうど学校から帰ってきた子供たち

日本人が珍しいからか
あっという間に子供たちに囲まれ、
「どこから来たの?」「なんで肌の色が違うの?」と
飛び交う質問に、私の英語力は乏しく
なんとか伝えようとカタコトの英語とジャスチャーで答えた

腕を組みながら施設内を案内してもらい、
1階は男の子、2階は女の子の部屋で
宝物ボックスを見せてくれる子や、絵を描いてくれる子
ダンスをしたり外で遊びたい子で
遊ぼう!遊ぼう!と大騒ぎ

特にいつも一緒にいた子が
ラクシュミーという女の子

彼女はとても綺麗に笑う子で
ふとしたときに見せる大人びた表情に
何度もドキっとした

彼女は歌うことが大好きだ

インドの流行りの歌を聞かせてくれて
日本の歌は?とよくお互いの国の歌を歌った
(カントリーロードや世界に一つだけの花とか)

 

2日目の朝、カメラを片手に子供たちのもとへ

子供たちはカメラに興味津々で
貸して!撮って!見せて!が止まらず
子供たちの表現力に驚き
私も夢中でシャッターをきっていた

この施設では、週末だけ家族と過ごす子供も多く
親が迎えにくることもあり
ラクシュミーも私に

「今日はお母さんが会いに来るの」

と、とても嬉しそうに話してくれた

私もそんな彼女の隣でお母さんが来るのを待っていたが
予定時刻を過ぎても母親の姿は現れなかった

それでも彼女は笑顔で、でも肩を震わせながらこう言った

「私は待っている。お母さんのことを信じているから。」

あんなにも小さな身体で背負う言葉の重み

なにもできないことは分かっていた
ただただ、あまりにも自分の無力さを痛感した

私は今でも、彼女の言葉や情景が目に浮かぶ

 

撮影するということは、
その人の人生に触れることでもある

写真は心にずっと生き続けてほしいと願うばかりだ

 

フィールドワークでの時間は
自分の写真、自分自身と真剣に向き合い
成長のきっかけを零さないよう、必死に掴み

送り出し、待っていてくれた家族や友人、
共に旅をした仲間たちや、
飛び込んだからこそ出逢えた人たちへの感謝の気持ちでいっぱいだ
(FW7期生は今でも交流があるんです!)

無駄なことなんて何一つなく
あの日々の経験、感情が今を創り上げてくれているのだ

今、私はよき仲間と出会い
写真で想いを紡ぐこと、そして『愛情の再確認』を大切に
日々写真を撮り続けている

 

「もう1度、あの旅をはじめるとしたら?」

とふと考えることがある

きっとあのときのような
ただひたすらに真っ直ぐ写真を撮ることは
きっとできないんだろうなーと思うけれど
今だからこそ撮れる写真もあると思う

この先、どんな写真に出会えるか

楽しみに

 

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