Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー vol.20
学校法人呉学園 日本写真芸術専門学校には、180日間でアジアを巡る海外フィールドワークを実施する、世界で唯一のカリキュラムを持つ「フォトフィールドワークゼミ」があります。
「少数民族」「貧困」「近代都市」「ポートレート」「アジアの子供たち」「壮大な自然」、、
《Lines of Sight ーそれぞれのアジアへの視線ー》では、多様な文化があふれるアジアの国々で、それぞれのテーマを持って旅をしてきた卒業生に、思い出に残るエピソードを伺い、紹介していきます。
URBAN GROWTH
PFWゼミ13期生 八島 颯也
マレーシアの最南端に位置するジョホール州、その中でも対岸にシンガポールを臨むエリアがあり、ここでは深圳やシンガポールに習う超大規模開発が行われている。
私はこの地に2017年、2018年に訪れている。
最初の訪問は2017年の9月
2年次の海外研修の際に訪れた。
シンガポールを対岸に望む海辺の大規模埋立、開発だ。
近隣の土地から土や土砂を運び、海を埋め立てて、集合住宅やホテル、オフィスビルを誘致する計画だという。
この計画には、マレーシア政府のほかにシンガポール政府の協力も大きく関わっているらしい。
現在のシンガポールでは、物価の高騰や人口増加によって供給が追いつかず、その機能の1部を近隣のジョホールバルに移そうと言うものだ。
私はその光景を初めて目の当たりにした時、
あまりのスケールの大きさに圧倒されてしまった。
私の作品は全て夜間撮影による写真で構成されている為、日中はロケハンのために現地でガイドと車を手配し、周辺をくまなく散策して回った。
ロケハンの中で気づいたのは、中国語の多さだった。
建設中のビルのクレーンには、デベロッパーの名前が看板に書かれることが多いのだが、そのほとんどが中国語による表記だった。
それどころか、現地のショッピングセンターや住宅販売の広告ホテルに至るまで、英語と中国語の併記が多数見られた。
後に知ったことだが、このジョホールバル州全体で行われているイスカンダル計画では、そのほとんどが中国の出資によって成り立っているものだった。
自国の資金だけではなく、外国資本を頼りその地域を発展させていく。手法は、東南アジアでは決して珍しくないのだが、ここまで大きな開発となるのは珍しい部類だと思う。
タクシーの運転手や現地に店を構える人の話では、イスカンダル計画が進行するとともに、毎年人の数が増え、車の数も増えていくとの事だった。
現地ではこのイスカンダル計画に大きな期待を寄せていることがわかった。
2018年ちょうど1年後にこの地を訪れたときにはさらに驚愕の光景が待っていた。
2017年に訪れたときには完成していなかったフォレストシティエリアだが、何もない海だった場所に新しい土地が完成し、ビルが生え、人工の森が形成されていたのだ。
半年間海外をめぐっていると、並大抵のことでは同じなくなる感性を手にすることになるのだが、
このエリアの開発のスピードには非常に大きな衝撃を受けた。
それと同時に私は少し恐怖を感じた。
私が思う都市開発と言うのは、そこに住む人々たちがより良い発展のために行われるものだと言う先入観があった。
しかしどうだろう、今、目の前にしているのは、人の手によって作られた土地の上に、巨大なビルを建設し、人工的に森林を形成する行為は、なんだか「神の断りに反するのではないか」と感じた。
フォレストシティを後にし、周辺の土地を散策して回った。
付近では低層住宅地の開発が進んでいた。
これらも2017年には用地確保のみで何もない空き地だった場所である。
すべての建物は同じデザインで、住宅街内部に入ると、同じ壁、柱、ドア、地面が無限に続いている。
コンピューターによってコピー&ペーストを繰り返されたかのような街並みは、まるでゲームの世界に迷い込んでしまったのかではないかと錯覚するほどだった。
ここでの経験が、私の作品の大きな鍵となる。
すべての物や事象は、どれも他のものとの関係性でのみ成り立ち、いずれも単独ではその意味を見出せない。
この半年間のフィールドワークを通して見てきた様々な都市たちは、内部の非常にミクロな変遷から、その都市自体の成長に至るまでその全てが自然としてのアンティティーを失い、何か虚構のジオラマのような姿になりつつある。
後に訪れる同国のマラッカや、中国のオルドスにあるゴーストタウン等で見られる理路整然としすぎた建築物や人間の手によって、規則正しく植えられた植物は、
自然界のリアリティーを失っていてグロテスクな人間の欲望や、様々な思想が入り混じったカオスに見える様になった。
旅を終えて、もう5年以上になる。
さっきのマレーシア、ジョホールバルのイスカンダル計画は、あと2年で完成するらしい。
私はその後の街の開発がどうなったのか、この目で確かめなければならない気がした。
可能であれば是非再訪したい。
フィールドワークを通して得た経験はカメラマンとなった。今でも作品作りの根幹に根ざすものとなっている。
八島 颯也 / Yashima Fuya
2019年に日本芸術写真学校を卒業、都内撮影スタジオでの3年間勤務を経てフリーランスのディレクター兼カメラマンとして独立。
現在は物撮りを中心にファッションポートレートから取材撮影、ムービー分野まで幅広く手掛ける。
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