グッドモーニングトウキョウ vol.2-3
様々なクリエイターに“東京の朝”をテーマにした作品を制作してもらう『グッドモーニングトウキョウ』。
写真家のフジモリメグミさんの最終回。
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写真家 フジモリメグミ
祖母が亡くなってから4ヶ月がたった。いまも彼女が生きていた頃と同じペースで実家に帰り、お線香をあげて、いつも通り話しかけている。
私たちが居候生活していた部屋は、みんなで集まって食事をする部屋であり子供の頃の遊び部屋だった。ひと段落したら遺品整理を手伝いながらこの部屋で写真を撮ろう、撮りながら思い出させることをまとめよう、と思っていたが、両親の遺品処理の速さは想定外のものだった。実家に帰ってくるたびにものが減っていく。目に見えるところから見えないところまで、クローゼット、箪笥、食器、洋服、ありとあらゆるものが捨てられていく。
戦中派の祖父母はものを大切にしてきた。ちょっとそれは捨てようぜ!というものまでとっておくから、整理をする両親も大変だったと思うし、半分ヤケになっているんじゃないかと察する。そうすることで祖母の死に祖父母の不在に向き合っているのかもしれない。だけど私にはそんな現実がしんどかった。
祖母の部屋にはいると、まだ彼女の匂いが残っていて心が休まるような気がした。でもそれは捨てられることになった服や毛布から私の鼻に届いているようだ。じーちゃんが生きていた頃はふたりの部屋にお泊まりにきたことが何度もあった。このベットも捨てられてしまうのだろうか。
しばらくの間残しておいてほしいと伝えていたばーちゃんのスリッパがなくなったことに気がつき、諦めのような悲しい気持ちになった。たしかに、ボロボロだった。新しく買い替えてあげようと思ったこともあったが、ばーちゃんの足の形によく馴染んでいたのでこのスリッパを履いていたほうが安全だよなと、そのままにしていた。青いチェックのスリッパ、何年間愛用していたんだろう。
祖父母の住んでいた1階はすっかり片付いて生々しさがなくなった。こんなに良い部屋に誰も住んでいないなんて勿体無すぎると思う。そう考えている私は近いうちに、カロを連れてお泊まりにいこうと企んでいる。私にとっての新しい東京の朝がはじまるかもしれない。
フジモリメグミ
1986年東京都生まれ。2011年に「ワンダーシード2011」入選。2011年petit geisai#15 準グランプリを受賞。2013年よりTAP Galleryに所属。2015年にニコンサロンJuna21に入選。2017年ユカイハンズパブリッシングより写真集「apollon」を出版し、2018年「kairos」銀座/大阪ニコンサロンに入選、2019年に第4回epSITE Exhibition Awardのグランプリを受賞した。