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グッズデザインで舞台の世界観を伝える~演劇・ミュージカル業界のクリエイティブ職~

お気に入りの公演グッズを見るたびに、ふと物語のワンシーンやあの日の熱狂が鮮やかに蘇る。
そんな体験をしたことがある人はきっと多いのではないでしょうか。
あの時の記憶と感動を蘇らせるアイテムを生み出すのが、グッズデザイナーという存在です。

今回、株式会社ホリプロ 公演事業本部で物販デザインの担当をされている石居 立宇様にインタビューしました。
制作の裏側やこの仕事のやりがい、そしてファンや観客の方々へ届けたい想いを語っていただきました。

グッズデザイナーに至るまでの経緯を教えてください。

私は、元々役者をしていて、養成所に通っていた時期がありました。
しかし、コロナが流行したことで、改めて自分の人生を見つめ直す機会がありました。
その中で、デザインやイラストを描くことが好きだったため、専門学校へ進むことにしました。
そして卒業時に、先生から現在の会社を紹介していただいたことがきっかけで1年前よりグッズデザイナーとして働いています。

普段、どのような業務を担当されていますか?

主な業務は、舞台・ミュージカル公演のグッズデザインです。

それ以外にも、通販で扱う画像やバナー作成、公演の現場で使われるPOP・ポスターなど宣伝広告の制作も担当しています。さらに公演の初日には、私も売り場に立って販売します。

グッズデザイナーを目指す上で、必要なスキルや経験はどのようなものがあると思いますか?

グッズデザイナーの仕事では、IllustratorやPhotoshopを使って作業するため、その2つの基本的な操作スキルは必要だと思います。ですが、最初から高度なテクニックは必要がなくても良いのではと感じています。

実際、入社当初はPhotoshopの機能を十分に使いこなせていたわけではありませんでした。
アクリルスタンドの制作を任されたときも、最初は戸惑いながら先輩に教えてもらい、なんとか8種類を仕上げましたね。
Photoshopには精度の高い自動切り抜き機能もありますが、より綺麗に仕上げるためパスツールを使って丁寧に切り抜くなど、実務を通して学んだことも多いです。

経験について言えば、学生時代に通っていた養成所のつながりで劇団のフライヤー制作を1度だけ手伝ったことがあります。残念ながら、公演はコロナで中止になってしまったのですが、今でも思い出に残っている大切なフライヤーです。

結局のところ、大切なのは「こんなデザインのグッズを作りたい!」というこだわりや理想、具体的なイメージを持つことです。そのこだわりこそが、スキルや経験を積む原動力になると思います。
そのため、たとえ実務経験がなくても、デザインへの熱意を持っていることが1番大切だと感じます。

デザインのアイデアはどのように生まれてくるのでしょうか?また、1つの商品につき、どのくらい案を出されるものですか?

最初のグッズ会議は公演の2~3ヶ月前に行われます。
アイデアの出し方は、制作チームから具体的なデザイン案を提示される場合もあれば、「こんな雰囲気で」といった抽象的な要望の場合もあります。
具体的な依頼内容であれば、1~2案、抽象的な要望であれば3~4案を目安に提案します。
ただ、不採用になれば新たな案を出すため、最終的な提出案は基本的には1~2案に収まりますね。

この仕事に就いて、まず驚いたのがスピード感です。
学生時代は時間をかけていくつも案を出すことが多かったのですが、仕事では納期があるため、かなりスピードを求められます。
本当はもっと時間をかけて考えたいのですが、時間との兼ね合いにはジレンマを感じています。

そのため、1つのグッズに費やす時間も限られてくるため、時間配分を意識し効率を考えて作業を進めるよう心掛けています。

グッズデザインを手掛ける際で、意識しているポイントがあれば教えてください。

デザインを進める上で、作品の世界観とお客様がどんなものを求めているのかという点を意識しています。
また、上司からはよく「公演グッズ感がもっとほしいよね」と言われることがありますね。

私なりに解釈すると、

・舞台・ミュージカルを観に行ったときに記念や思い出に買って帰りたくなるグッズ
・公演に登場する観客の印象に残るような象徴的なモチーフを使用したデザインのグッズ

この2つの要素を指すのではないかと考えています。

例えば、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.2『マクベス』という舞台のグッズで、私が担当したのが紅茶缶です。

この舞台で、特にインパクトに残るのが、3人の魔女の登場シーンです。
そのシーンをグッズのモチーフにできたらなと思い、吉田鋼太郎さんが率いる3人の魔女をイメージしてデザインを制作しました。

このデザインはTシャツにも転用され、上司にも気に入ってもらえて、非常に嬉しかったですね!

他には、ミュージカル『ジェイミー』のチャームも担当しました。

他の公演では、こういった人物や単体のデザインで商品化されていますが、『ジェイミー』の公演では、「舞台シーンを再現したい」という具体的な要望がありました。
そこで、印象的なシーンの人物だけでなく背景も含めたデザインを手掛けることに。
制作チームと綿密に話し合いながら完成させました。

このチャームはコンプリートセットでも販売され、ファンの方々から好評をいただけました。
販売方法に関しても、公演によってランダム形式や選んで買える形式を使い分けて、バランスをとりながら決定をしています。

このように、“公演グッズ感”をキーワードとして、舞台シーンや象徴的なモチーフをデザインに取り入れ、お客様が思い出として買って帰りたくなるようなアイテムにすることを常に意識しています。

もし、アイデアが浮かばない時は、どのようにして乗り越えていますか?

難しいと感じるのは、ヒューマン系の人間関係を描く物語ですね。
象徴的なモチーフがなかなか見つからず、行き詰まるときがあります。

その時は、提供された台本を熟読しています。単なる読み物としてではなく、何が観客の皆様の記憶に残るのかという視点で読むようにしています。
また、制作チームに積極的に質問をしてデザインのヒントを引き出すようにしていますね。

商品に使われているイラストは、グッズデザイナーの方が描かれているのでしょうか?

外注するのではなく、イラストも含めてデザイナー自身が手掛けています。
例えば、音楽劇『エノケン』の似顔絵イラストも私が担当しました。

「こういうタッチがいい」という参考があれば、できるだけその雰囲気に近づけて描くようにしています。

描いたイラストは、その後、さまざまな関係者の承諾をいただく必要があります。
承諾の連絡を待つ間は、毎回緊張しながら待っています(笑)。

ファンの方々の反応はどのように受け取っていますか?また、その反応がデザインに影響を与えることはありますか?

販売した時の反応は、X(旧Twitter)などでエゴサーチしてチェックするようにしています。
その理由は、先程のお話しした “公演グッズ感”にも繋がってきます。

お客様が何を求めているのか、どんなポイントにときめいてくださったのか。そうした客観的な意見を意識しながら、デザイン案を考えるようにしています。

最近では、グッズが体験の一部として重要な役割を果たしているように感じます。そうした中で、グッズが作品やファンに与える影響についてどのように考えていらっしゃいますか?

私も現代において“体験”は大切だと考えています。
便利な時代になり、スマートフォンがあれば、様々なコンテンツが楽しめるようになりました。
しかし、情報だけを体に取り入れているような感覚に、どこか物足りなさを感じている人も多いのではないでしょうか。

例えば、動画配信サービスならボタンひとつで映画が見られるのに、なぜわざわざ映画館へ足を運ぶのか。
それは大音響の中で、同じ空間にいる人たちと感情を共有したいという思いや、映画館に足を運ぶ過程を楽しみたいという欲求があるからだと感じます。
演劇も同様です。映像ではなく、生のキャストの演じる姿を観たいという思いがある。
そうした“体験”への欲求に対して、舞台・ミュージカルなどの演劇、そして公演グッズは応えてくれるのではないかと思います。

さらに、グッズという手元に残る形は、あの時の”感動”を呼び覚ます装置でもあります。
だからこそ、公演グッズは作品やファンの皆様にとって欠かせない役割を担っているのだと考えています。

苦労したことや、やりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?

この仕事で難しさを感じるのは、チームで仕事を進める上での連携です。誰に何を、いつまでに伝えるべきか、といった事務的なやりとりに混乱してしまうことがあります。
仲介を通して確認をしなければならないこともあり、入稿期日との間で歯がゆさを感じることが少なくありません。
また、パソコンに向かって黙々と作業をしていると、デザインしたものがこの後どうなっていくのか、が意外と見えづらくて苦しいと感じる瞬間もあります。

デザイナーとしては、独創的なものを求められるというより公演での象徴的なモチーフをいか魅力的に落とし込むかが重要です。
そのため、舞台のモチーフや素材がないときにどこからアイデアを引っ張ってくればいいのかと試行錯誤することに苦労を感じます。

しかし、自分では納得のいかなかった商品や、モチーフや素材がなく試行錯誤した商品でもお客様から反響をいただくこともあって「やってみるものだな」と感じています。
公演初日を迎えて、自分がデザインしたものをお客様が手に取ってくださったり、すぐに身につけてくださったりする姿を見ると、本当に嬉しいです!

学生時代とは違い、自分のデザインが世に出ているという怖さや責任を感じる瞬間もありますが、それ以上にお客様の反応を直接目にするとやりがいに繋がります。

グッズを通じて、ファンや観客の方々にどんな想いや体験を届けたいですか?

お越しくださった観客の皆様がそれぞれの日常に戻ったときに、作品を見た時の感動や記憶をふと思い出して、勇気や元気が湧いてくるグッズづくりを心掛けていきたいです。

最後に、グッズデザイナーを目指す方々へアドバイスをお願いいたします。

社会に出ると、自分の創りたいものと周りから求められるものとのギャップが生まれるというのは当然のことだと思います。

学生時代、先生から「創りたいものを創れるのは今のうちだけだよ。だから今のうちに好きなものを創って、やりきる体験をしておけ。」と言われたことがありました。
当時はあまりピンときていなかったのですが、今回の取材を受けて、ハッと思い出して。
「今になって先生の言葉が響いているんだな」と感じています(笑)。
先生からは他にも「誰かに求められるものでも、結果的に自分の創りたいものになってくるよ。」とも言われました。
その言葉は100%理解できているわけではありませんが、公演初日にお客様が購入する姿を目にすると分かってくるところもあります。

これから志す方々に伝えたいのは、自分の表現を突き詰めたいなら個人で活動するのも1つの道かもしれません。
一方で、就職してデザインの仕事をしていくようであれば、求められるものを理解し、それに応えるための努力を模索し続ける覚悟が必要だと思います。
学生のうちは創りたいものを自由にできる環境がありますから、悔いは残さないように今のうちにやりきってほしいです。

***

石居様、ありがとうございました!
デザイナーとしての責任やチームで働く難しさ、そして常にスピードを求められる厳しさ。
そうした壁を乗り越えた先に届くファンや観客の方々の反応が、何よりの励みになっているのだと強く感じました。
改めて、舞台・ミュージカル、そして公演グッズが私たちに与えてくれるのは、単なるお土産や観劇ではなく、日常を彩り、心に残る体験そのものだと気づかされました。

デザイナーの熱い想いが詰まった公演グッズと共に、ぜひ皆さんも舞台の世界に触れて、勇気や元気が沸いてくる特別な体験をしてみてください。

2025年11月24日より幕を上げた『デスノート THE MUSICAL』では、石居様が手掛けたグッズも販売されています。
ぜひ劇場で注目してみてください!

 

ご協力:株式会社ホリプロ

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