インスタで人気沸騰の「ヨヨギノイエ / 30代建築家の一人暮らし」建築家 日高海渡さんインタビュー〈前編〉
「ヨヨギノイエ」ご存知でしょうか?
築50年のお部屋をフルリノベーションした
建築家の方の”ご自宅兼仕事場”
それが「ヨヨギノイエ」です。
instagramでは建築に関してだけではなく住まい方を発信しており、その投稿が人気でフォロワーがどんどん増えていっています。
今回は「ヨヨギノイエ」の主、
建築家 日高海渡さんに気になるいろいろなことを直接お聞きできる機会をいただきました。
Profile/ヨヨギノイエ|日高海渡さん
編集部|
本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは日高さんのプロフィールからお聞かせいただければと思います。
日高さん|
株式会社swarmという会社をやっています。
空間設計の会社なんですけど、新築もやりますし、インテリアデザインも両方やるような会社で、ちょっと特殊なのはいろんなフリーのデザイナーさんとチームを組んでプロジェクトをやることが多いというところですね。
swarm自体は3人のメンバーだけなんですけどパートナーの会社さんや個人の方は10数名いらっしゃいます。
プロジェクトごとに、新築が得意なデザイナーさんであったり、リノベーションが得意なデザイナーさん、住宅だったり商業施設だったり、いろんなお仕事の依頼に合わせて、ミスマッチが起きないように最適なチームを組んでプロジェクトに取り組む、ということをやっている会社です。
日高さん|
私自身のことでいうと、東京出身なんですが生まれてすぐにパキスタンに移り住みました。
0歳から3歳にかけて住んでました。
その影響もあって、ここにも実家に残されていたパキスタンのインテリアなんかも置かれていたりします。
その後も、小学校から中学3年生まではイギリスに住んでいましたね。
海外転勤の多い親だったので、それについていった影響で帰国子女みたいな感じでした。
パキスタンのことはさすがに覚えていませんがイギリスでの生活はよく覚えています。田舎の方でレンガ造りの家に住んでいました。
「ヨヨギノイエ」とは?
日高さん|
ヨヨギノイエには住んでもう5年くらいになるんですけど、もともとは50年前に祖父母が購入した家です。
しかし住んでいた期間はごくわずかで、40数年間ずっと貸していたんです。
だけど、だんだんと古くなり家賃もどんどん下がってしまって、そのままではもったいないのでリノベーションをして私が使うようになったという感じです。
それが2017年、私が28歳のときに住みはじめました。
独立して3年くらいのタイミングでしたね。
クライアントワークではない、自邸をデザインする楽しさは違いがありますか?
日高さん|
住宅設計をしていると考えてしまうのが「どこまで作ったらその設計は終わりなんだろう」というのって大事なことだと思っていて。
個人的には空間というのは人が住みはじめないと生きてこないというか、工事完了直後はまだ完成していない状態だと思うんです。
住み手の物とか生活感が現れてから初めて空間が生き始めると思うので、住んでからが一番楽しいと思うんですよ。
住んでいるとライフスタイルに合わせて空間の使い方とか、どういう物が現れるかも人によって違いますし。
その過程を一緒に作っていけるというのは自邸ならではだと思うので。
やっぱり誰かのために設計するときには、生活しはじめたときのことを考えながら設計はするんですけど、どっかでバトンタッチしないといけない。
けど、自邸は最後まで並走できる感じがいいですね。
編集部|
なるほど、28歳の頃の設計がスタートで、時間とともに家も一緒に成長していっているんですね。
日高さん|
そうですね、やっぱり5年も住んでいると考え方も変わりますし、生活スタイルもぜんぜん違いますし。
そもそもここを設計しているときも「俺はどういう風に住むんだろう?」みたいな、あんまり想像できない面もあって。
ここ100平米あるんですけど、28歳の人間がひとりで住むにはもったいないじゃないですか(笑
だから最初は「僕がひとりでここに住む意味ってあるのかな」みたいな、贅沢すぎるんじゃないかと思ってました。
まぁだけど、そんな僕でもここに住むならどんなことが考えられるかな、ということを想像しながら設計はしました。
けどそれが本当に意味のあることなのか、というのは住んでみないとわからないな、という感じでした。
ヨヨギノイエで特に“こだわりが強い”場所はありますか?
日高さん|
一番意識したところは玄関を入って最初に広がる空間ですかね。
さっきの話しから連続するんですけど、僕がひとりでここを占有するのはもったいないと考えていたので、できるかぎりオープンな使い方、できるかぎりいろんな人に来てもらうとか、いろんな使い方ができるとか、許容値の高い部屋にしようということを当時考えていました。
なので“仕事場兼自宅”というので、打ち合わせができるようにすればいろんな人が来てくれますし、友達とかを呼んでホームパーティーとかご飯会みたいなのがやりやすいようなフレンドリーな空間づくりをしたいなと思っていて。
玄関を開けて最初になにが見えるかって大事なことだと考えていて、普通のマンションだと構造的にどうしても廊下が最初にあって、廊下の横に水回りがあって奥にLDKがある、みたいな構造が多いんですけど、それって一番プライベートな空間から始まってしまっているんですよね。
編集部|
なるほど、たしかにひと様のお宅にお邪魔するときってお風呂場やトイレといった、ちょっと見ちゃいけない空間を最初に抜ける感があって、恐る恐る入っていく感じがありますね。
日高さん|
それってそもそも人を招き入れる想定で設計されていないんですよね。
僕がリノベーションの際に設計したのは、人が集まっている空間が最初に見えるようにしています。それだけでだいぶフレンドリーな面構えになるというか。
「窓」がすごく素敵ですが、どのようなことを考えて設計されているのですか?
日高さん|
「窓」には興味関心が高くて、、、
ちょっと本を持ってきますね。
私の大学・大学院時代に東北大の塚本研というところに在籍していたんですけど、ここの研究室がYKKAPさんと一緒に「窓」について合同研究していて僕も手伝わさせていただいていました。
研究の内容は学生が世界中に派遣されて世界中の良い窓を採取してくるという研究だったんです。
建物の中に入らせてもらって写真を撮影し、採寸してそれをまとめるということをやってました。
この研究の面白いところが、普通「窓」ってどこを指すかっていうとサッシの部分までを考える人が多いと思うんですけど、それだけだと「窓」の良さっていうのは捉えきれなくて、「窓辺」として見ることが大事だと思うんです。
この研究では学生たちが「この窓はここまでが「窓辺」だな」という判断でまとめられているので、窓を中心に人が集まる空間であったり、生活感、文化なんかが見ることができる研究なんです。
だから僕もリノベーションしたときは「窓辺」について考えて、造作したデイベッドや植物と窓で「窓辺」を構成して、そうするとデイベッドに座ると背中に窓、植物がパラソルのようになって植物越しの日光浴ができる環境が生まれるようにしました。
窓っていろんなものとの相性が良いはずだから、窓を設計するときはどんな窓辺が作れるかを考えているんですけど、ただ、日本の窓って特にマンションだと「掃き出し窓」っていう床まである窓が多くて、そればっかりだと難しいですね。
腰の高さくらいの窓だとソファやテーブルと干渉しないのでセットで設計できるので「どんな窓辺を作ろうかな」ってできるんですけど、「掃き出し窓」は人が出入りする動線としての役割があるので、そこの窓辺をどう作るかはこれからの課題でもありますね。
編集部|
たしかに日本のマンションの窓って「掃き出し窓」が多くて、腰の高さほどの窓ってあまり見かけないですね。
日高さん|
「窓」って何かと仲良くなりやすいっていうか、「窓辺」っていう環境で周辺を取り込みやすいものなので、建築要素としても特殊だと思うんです。
なにとセットにすると良い窓辺が作れるかっていうことが個人的には設計する上ですごい大事だなと考えていますね。
実際にお住まいになってからの「新しい発見」はありましたか?
日高さん|
もうめちゃくちゃあります(笑
「断熱」の話しはYouTubeとかでもいっぱいしちゃってるんですけど、それとは別で「ライフスタイル」的な発見もいっぱいあって、設計してた年齢のときって料理とかしてなかったんですよ。
けど部屋の大きさに準じてキッチンも大きめなんですけど、当時は料理もしない人間がこんなに大きなキッチンいるのかとも思いながら設計していました。
ダイニングはみんなでご飯食べたいなと思っていて、料理もするかもしれないから作っておこう、という感じだったんですけど、今“家開き”でパーティーをするときに後悔しているのは「キッチンの位置」や「向き」で、もう少しコミュニケーションしやすいキッチンにすれば良かったなと思いましたね。
空間としては繋がっているんですけど、料理を作っているとスタッフのような感じになっちゃうんですよね。
ただ、ホームパーティーとかをしていて、喋り疲れた人がキッチンに逃げるという動きもあって、そういう「避難場所」にはなっています。(笑
そういうのも住み始めてわかった新しい発見ですね。
ご自身でSNSを使い発信していこうと思われたきっかけは何ですか?
編集部|
SNSをやっている建築家の方などはまだまだ少ないですよね?
日高さん|
そうなんですよね、建築やインテリアの人ってやりづらいんだと思うんです。
インスタとかだと更新のためには日々の情報が必要になってくるんですけど、クライアントワークって竣工写真以降なかなか情報って更新されないからネタ不足っていうのは常にあると思います。
だから僕もアカウント3つ持っていて、個人アカウントと会社アカウントと、ヨヨギノイエアカウントなんですけど、会社アカウントはあまり動かせないんですよね。掲載できるものがそんなに頻繁に出ないので。
最初は個人アカウントと会社アカウントだけだったんですけど、個人アカウントではプライベートなことから仕事のことまで入ってきてバラバラだったんですけど、ヨヨギノイエアカウントを作ってから区分けできるようになったのと、あと発信しやすくなりました。個人アカウントだと少し恥ずかしく感じてしまう発信もヨヨギノイエアカウントだと発信できるんですよね。
編集部|
最初のスタートは何だったんですけ?必要性を感じていたんですか?
日高さん|
なんでだったんだろう。。。
でも最初はヨヨギノイエアカウントがこんなにフォロワーさんが増えるとは想像していなかったですね。
最初の話しにも戻りますけど家って住み始めてから生きてくるので、それを発信するのは会社アカウントではやりづらかったんですけど、家の名前で発信できるのはやりやすくて、今考えるとやって良かったなと思ってますね。
でもやりはじめた当初は周りからはいじられましたね(笑
建築家のブランディングって難しくて、今までは巨匠文化というか、フランクに発信する文化はあまり無かったんですよね。
だから業界の近い人からは最初だいぶいじられました(笑
編集部|
けど、業界の外の人からは大好評だった、ということですよね。
日高さん|
そうですね、喜んでくれたり、フォローしてくれる人もだんだんと増えてくれているので。
発信するのは悪くなかったな、って思ってますね。
「インスタで人気沸騰の「ヨヨギノイエ / 30代建築家の一人暮らし」建築家 日高海渡さんインタビュー」〈後編〉へ続きます。
PicoN!編集部 木下・横山