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「美術のこもれび」Rayons de soleil dans l’art ⑬ ― フィンセント・ファン・ゴッホ 作 『ひまわり』

フィンセント・ファン・ゴッホ 作 『ひまわり』について

専門学校日本デザイナー学院東京校 講師の原 広信(はらひろのぶ)です。

このコラムでは、フランスを中心に活躍する印象派の画家を3回ほど取り上げてきました。クロード・モネ(第2話)、セザンヌ(第4話)、シニャック(第6話)です。

 

それらの画家はこれまでやってこなかった描き方、モチーフの捉え方を模索して、それぞれの絵画の新しい方向性へと導く創作でした。これら画家たちの模索に影響を受けたオランダ生まれの画家がいました。今回は、フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)の作品を取り上げます。
ゴッホという名前は知っている方も多いことでしょう。日本でも大変人気の高い画家です。

まずはこの作品をご覧ください。

【フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『灰色のフェルト帽の自画像 / Self-Portrait with Grey Felt Hat 』1887年 油彩画 ファン ゴッホ美術館蔵 Van Gogh Museum / Amsterdam, オランダ】 ※画像引用元:Van Gogh Museum HP

茶色い髭を蓄えたこの男性の「自画像」は、皆さんもどこかでご覧になったことがあるかも知れませんね。
彼の自画像は多くの美術館で収蔵されています。この作品が描かれたのは1887年、1853年生まれの彼が34歳頃の自画像で、ファン ゴッホ美術館に収められている作品です。

ゴッホの絵の特徴である細長く伸ばしたタッチ(筆跡)が連続する描き方がよく分かる作品です。自画像部分だけでなく背景にまでこのタッチで埋められていますね。

【フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『自画像 / Portrait de l’artiste 』1889年 65,0 × 54.2cm 油彩画 オルセー美術館蔵 Musée d’Orsay / Paris, フランス】 ※画像引用元:Musée d’Orsay HP

こちらも『自画像』。中央の顔の周辺が衣服を含めて背景が独特のタッチがうねっています。この渦を巻くようなタッチもゴッホの絵の多くに見られる特徴です。
次は、この自画像を描いた4年前の作品です。

【フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『ジャガイモを食べる人々 / The Potato Eaters 』1885年 85.5 × 114.5cm 油彩画 ファン ゴッホ美術館蔵 Van Gogh Museum / Amsterdam, オランダ】 ※画像引用元: Van Gogh Museum HP

1885年に(ゴッホ32歳頃)描かれたこの絵は、大変暗く重たい印象の画面です。貧しい生活を送る農夫たちの日常を描いた作品で、贅沢な暮らしではないながらも逞しく生きる様子が描かれています。オランダ在住時に描かれ、画家としての彼にとっては初期の頃の作品のひとつです。
この絵にはまだ、ご覧いただいた自画像2点に見られたゴッホの独特のタッチは見られません。
その1年後の1886年に、ゴッホは弟テオ(Theodorus van Gogh)を頼りにフランス、パリに移住します。その頃のパリはまさに印象派の画家たちが活躍していました。

【ジョルジュ・スーラ Georges Seurat 『オンフルールの灯台 /The Lighthouse at Honfleur 』1886年 油彩画 94.6×109.4cm ワシントンD.C.国立美術館蔵 National Gallery of Art, Washington DC /Washington DC,米国】 ※画像引用元:National Gallery of Art, Washington DC HP

この作品はジョルジュ・スーラという画家が描いた油彩画です。この作品はこのコラムの第6話で紹介したポール・ヴィクトール・ジュール・シニャック(Paul Victor Jules Signac)の描いた絵画と同じ画法で描かれています。(参照:【参考作品例】)
それは筆のタッチ(筆跡)が細かい点になっていて、色の点の集積「点描画」なんです。

【参考作品例】

ポール・シニャック『サン=トロペの港 』1901~1902年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館蔵 ※画像引用元:国立西洋美術館公式HP

ゴッホが赴いた頃のパリはまさに印象派やさらにこうした「点描画」の画家たちが活動する街でもありました。
そんなパリで過ごして描いたゴッホの作品です。

【フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『タンギー爺さん / Le Pere Tanguy 』1887年 92 × 75cm 油彩画 ロダン美術館蔵 Musée Rodin / Paris, フランス】 ※画像引用元:Musée Rodin HP

この作品は、スーラが『オンフルールの灯台』を描いた翌年にゴッホが描いた油彩画です。この絵には明らかに先出の「自画像」のタッチが見られますね。

彼は、スーラたち点描画の画法を独自ものもとして絵画に取り入れています。また、2年前に描いた『ジャガイモを食べる人々』と見比べると明らかに色彩が明るくなりました。室内にあって外光を積極的に描いていく印象派の画家の特徴です。このことから印象派の流れをくむ画家たちを『後期印象派・ポスト印象派(post-impressionnisme)』と呼ばれますが、ゴッホもその一人とされています。
タンギーさんの後ろの壁に日本の浮世絵が描かれていたりで興味深い作品ですね。

ゴッホはその後1888年より南仏の街、アルル(Arles)でたいへん優れた作品を生み出していました。しかし、共同生活を送っていた友人で画家のポール・ゴーギャン(Paul Gauguin)との間に感情的な行き違いが起こり、この年の年末12月30日に左耳を切り落としてしまいます。そして、さらに1890年7月に自らの胸に銃弾を打ち込んで、それがもとで死亡しました。(※下線部文章参照:Wikipedia

そんな1888年のアルル時代に描かれた、こちらが今回の1作です。

【フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh 『ひまわり / Les Tournesols (Sunflowers) 』1888年 油彩画 SONPO美術館蔵 SOMPO Museum of Art / Tokyo, 日本】 ※画像引用元:SONPO美術館 HP

全体的に明るいイエロー(黄)系の基調色である画面には、花瓶から方々に伸びる緑色の茎(くき)とそれらの先端に咲くひまわりの花弁には、どこか力なく儚さを漂わせています。花瓶に生けられたモチーフの写実よりも、ひまわりは描いているゴッホ自身の心象を表現しているかのようです。この黄色く明るみのある色調とモチーフの描かれ方の独特なタッチは、ゴッホならではの魅力を醸し出しています。

この「ひまわり」ですが、観覧できる美術展が東京で開催されようとしています!

その名も『ゴッホと静物画 伝統から革新へ』。東京・新宿にあるSOMPO美術館で開かれます。
10月17日から開催のこの展覧会、ゴッホのみならず、セザンヌ・ゴーギャン・ヴラマンクといったポスト印象派の作品も展示されています。
まさに芸術の秋に出かけて見てはいかがですか!

展覧会情報

ゴッホと静物画 伝統から革新へ

会 期:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
場 所:SOMPO美術館(東京・新宿)
公式HP:https://gogh2023.exhn.jp/

 


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