趣味だった写真が生涯の仕事に。世界遺産写真家 富井義夫さんインタビュー
写真家の富井義夫さんは、40年以上にわたり世界遺産の写真を撮り続けています。これまで133の国と地域を旅し、訪れた世界遺産は619箇所。20代の頃、写真を趣味にしようと働きながら専門学校に通われたそうです。その趣味がいつしか仕事へと発展。現在は株式会社写真工房で代表を務め、今もなお、世界中を駆け回っています。
富井さんに旅先での撮影エピソードや、世界遺産を撮影することについての魅力を伺いました。旅や世界遺産に興味がある方は必見です。
世界遺産写真家
富井義夫/ TOMII YOSHIO
北は北極圏から南は南極まで、40年以上にわたって世界中を駆け回り、空気感のある写真を追求し続けてきた。その原動力は、過去、現在を問わず、人間への尽きない興味にある。「世界遺産」は世界の人々の宝物、その素晴らしさを伝えるメッセンジャーになることが、長年世界遺産を撮り続けてきた私の願いであり使命だと感じている。写真展、著書多数。
日本写真家協会会員
NHK文化センター講師
海外取材246回/世界遺産歴訪619箇所
HP:https://www.tomiiyoshio.com/#page1
写真工房:https://shashinkoubou.com/company/
今まで撮影されてきた中で印象に残っている場所とその撮影エピソードを教えてください。
1つ目の場所は、アブ・シンベル大神殿です。それは、私が世界遺産を撮影する原点となった場所だからです。30年以上前になりますが、ひとつの新聞記事がきっかけでした。それは、エジプトにあるアブ・シンベルという遺跡が、アスワン・ハイダムの建設で水没の危機に瀕し、それを救おうとユネスコが中心となって前代未聞の移設工事が行われたという内容でしたが、私は強い衝撃を受けました。
紀元前1300年頃、3,300年前に造られたこの遺跡が、湖の底に沈んでいたら、人類にとって、計り知れない損失でした。当時は世界遺産についてほとんど知られておらず、日本にはひとつも無かった時代でしたが、私はこのときから徐々に世界遺産に惹かれていきました。
その後、私の視点で「世界遺産をまとめてみたい」という気持ちが強くなり、ライフワークとして世界中を撮影してまわることになったわけです。
2つ目として、ルーマニアのモルドバ地方の教会群を訪ねたときのことが、深く記憶に残っています。そこには、1487年から1583年の間に建設されたルーマニア正教会の8つの聖堂が世界遺産に登録されています。この遺産の大きな特徴は、外壁一面に描かれているフレスコ画です。内部にフレスコ画が描かれている教会は数多くありますが、内側のみならず外側にも描かれている教会はそれまで見たことがありません。その佇まいは圧巻でした。
そこでアジア人と思われる二人の青年に出会いました。「こんな場所を訪れるアジアの方は珍しいな」と思いながら撮影をしていました。撮り終えて機材を片付けていたとき「富井さんですか」と話しかけられました。それも「声」ではなく、スマホの画面で!驚きました。彼らは障がいを持つ日本の若者だったのです。
ここはウクライナ国境から、僅か数10㎞ぐらいしか離れていない寒村で、訪れるには難しい場所です。旅慣れた私でもこの場所を訪れるには苦労しました。障がいをハンディとせず、スマホをコミュニケーションアイテムにして旅をする若者、その勇気に感動しました。清々しく、力強い青年の姿は、10年近く経った今も鮮やかに蘇ります。
撮影する場所や構図はどう決めているのですか?一枚の写真を撮影するためにかける時間と流れを教えていただきたいです。
撮影する場所は「自分が撮りたい!良い作品を残したい!」という気持ちを抱いた場所です。一枚の写真を撮影するために、まず、旅の日程作りから始めます。航空会社、ホテル、レンタカーなどすべて自分で予約していきます。撮影現場に立つまでの準備が最も大切だと考えています。
世界遺産を撮影することを通して、写真を見る人にどんなことを伝えていきたいとお考えですか?また、世界遺産を撮影することの魅力を教えてください。
多くの世界遺産を撮影してきましたが、そこで感じたことは、文化が異なり、場所や時代の違いがあっても、人間が抱く思いは同じだということです。どこの国でも、子どもたちの目には輝きがあり、それを見守る大人たちには、優しい眼差しがあります。イスラム教、キリスト教、仏教など違う宗教であるにもかかわらず、人々が祈るのは家族や隣人の幸せです。人間は民族や宗教、時代を超えて、共通している思いを持っている、そのことをぜひ伝えたいと思っています。
世界遺産の魅力も、それに共通していると感じています。
世界遺産に観光で訪れている方も写真を撮ると思います。富井さんが撮影される写真と、観光写真との違いはどんなところでしょうか?
観光に来られている方は「旅の思い出」として写真を撮られています。
私は多くの人に「世界遺産の魅力を伝えるため」に撮影しています。記念の一枚ではなく、遺産が語り掛けてくるものを写真に表現出来たらという思いを持っています。
次に行きたい場所を教えてください。
いちばん行きたい場所はイランです。
魅力的な世界遺産がたくさんあるにもかかわらず、まだ一度しか訪れていない国です。イランの気候が良くなる来年4月に出発予定なので、「イスラムの美」を思う存分撮影してきたいですね。すでに航空券の発券は完了。今からワクワクしています。
次の海外取材は、12月にドイツに出かけます。
写真を学ぶ在校生やこれから写真を学ぶ方に向けて、アドバイスやメッセージをいただきたいです。
私は写真を生涯の趣味にしたいと考え、働きながら専門学校に通いました。趣味のつもりが、生涯の仕事になったのはなぜだろうと、自身でも不思議に思うことがあります。振り返ると、撮るたびに「なぜ上手く撮れないんだろう」という疑問が私の前に立ち塞がり、その疑問が自分を次の段階に押し上げてくれたと思います。そうやって進んでいくうちに、いつしか趣味が仕事になっていきました。
みなさんも身近な被写体を見つけて、どんどん写真を撮ってください。撮っていくうちに、自分の目指すものが見えてくるのではないかと思います。そして、生涯にわたって写真を楽しんでいただけたら嬉しいですね。
富井さんは現在写真展を開催中です。
企画展|富井義夫写真展「珠玉の世界遺産」―この地球(ホシ)が残してくれた宝物―
会 期:2023年8月26日(土)~10月29日(日)
場 所:ミュゼふくおかカメラ館
建築家の安藤忠雄氏が設計した建物で、 ミュージアム自体がひとつの芸術作品となっています
〒939-0117 富山県高岡市福岡町福岡新559番地
TEL:0766-64-0550 FAX:0766-64-0551
https://www.camerakan.com/exhibition/r05tomii/
写真展概要:大型パネル152点掲載
企画展トップの作品:文化遺産/アル-ヒジュル古代遺跡 サウジアラビア
お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください。富井さんありがとうございました!
トップの作品:文化遺産/モン-サン-ミッシェル フランス
PicoN編集部 木下
↓PicoN!アプリインストールはこちら