• HOME
  • ブログ
  • 写真
  • やさしく解説! 写真をプリントする意味ってなに? 第4回 ~画像だけでは伝えきれない印象やイメージを、画像以外の要素で補強する【プリント用紙編】~

やさしく解説! 写真をプリントする意味ってなに? 第4回 ~画像だけでは伝えきれない印象やイメージを、画像以外の要素で補強する【プリント用紙編】~

前回は、写真プリントにおける色の再現と印象の仕上げに焦点を当てて解説しました。

 

第4回目である今回は、「用紙」について見ていきます。

プリントは多くの場合紙に行います。ただ、紙でなければプリントでないわけではありません。写真家によっては、布、アクリル、金属、木など、あらゆる素材にプリントしています。それは「なんとなく」そうしているわけではなく、そういった素材で写真を表現する理由、意味、必然性があるからですが、紙以外にまで広げると話が長くなってしまうので、今回は紙に絞って考えてみます。

今回は、私が授業で使っているプリントのサンプルを編集部の濱田さんと一緒に見ながら、濱田さんの作品を1枚実際にプリントしてみます。

教室に並べたのは、同じ写真(カラーとモノクロ)をあらゆる種類の写真用紙にプリントしたもの。画像が同じなので、用紙の違いを比較することができます。

芳田)
まずは、いろんな紙があるということと、同じ写真でも紙が違うと印象が変わるということを感じてもらいたいと思います。
例えば、ツルツルテカテカした紙は派手で元気な印象、ザラザラしてツヤのない紙は、地味で深みがあるといった印象になります。

濱田)
すごい! こうして同じ写真を違う紙で比べられる機会ってあまりないですよね…

芳田)
そうですね、お店に並んでいるサンプルって、紙によって違う写真を使っていることがほとんどなので、こういう比較はできないですね。
写真家は制作を通していろいろな紙を試しながらその違いを知っていくんですけど、私の授業ではまず実物を見て知ってもらおうと思って、こうしたサンプルを用意してます。

濱田)
こんなにいろいろな用紙があるんですね!何がどう違うんでしょうか?

芳田)
細かな違いまで入れると相当な種類があるんですけど、大きく分けて写真用紙は5種類だと思ってください。

濱田)
5種類だけなんですか?

芳田)
はい。
まずは「光沢紙」。ツルツルテカテカした紙です。いちばん写真っぽいイメージがある紙だと思います。光沢感が強く出て、色の鮮やかさも黒の濃さもよく出ます。

これは「半光沢紙」。光沢感はあるんですが、表面をザラッとさせることで光沢を抑えています。

これは「マット紙」。光沢のない紙です。写真というよりは印刷っぽい感じになります。インクが染み込みやすいので、鮮やかさや黒の濃さは出にくくなります。

これは「アート紙」。画用紙のような質感がある紙です。この質感の違いでいろいろな種類があります。これも鮮やかさは光沢紙ほどは出ないですが、風合いや雰囲気のある紙です。

そして「バライタ紙」。これはすこし特殊で、画用紙のような質感がありながら、光沢感がある紙です。

光沢の強さは半光沢くらいですけど、半光沢紙のようなザラッとした質感じゃなく、画用紙のような質感です。

濱田)
なるほど。同じ光沢紙でもさらに光沢の度合いの違いがあるとか、半光沢紙でもザラッと加減に違いがあるとかですね。

芳田)
まさに。アート紙でも、質感の目の大きさ、流れる方向、深さとか、いろんな種類があるので、作品の方向性に合うものを選ぶということです。
ちょっとした違いが写真の見え方や伝わり方に影響を与えるので、自分のイメージや意図に合ったものを選ぶんです。

あと大事なのは、紙の厚み、重さ、コシ。

濱田)
コシ?

芳田)
紙を触ってみると、厚い・薄い、硬い・柔らかい、の違いがわかると思います。コシというのは、紙の硬さですね。曲げようとしたときに元に戻ろうとする力。

濱田)
あー、ありますね!

芳田)
それと最後にまた大切なのが紙の白。白の色が全然違うので。

濱田)
そうそう、1番はじめに思ったのが、白が全然違うなって。

芳田)
ピュアな紙はわりと黄色っぽい、オフホワイトの感じなんですけど、光沢のある紙は薬剤を塗っているので、それで白さが際立つようになって、紙の色も青赤い感じになるんです。

濱田)
そっか!それがモノクロだと、より写真の色に影響が出るんですね。

芳田)
そうですね。写真の白って紙の白なんで、明るいところほど紙の色の影響を受けるんです。
写真が濃い部分はインクの色が紙の色より勝ってくるので、そこまで大きくは変わらないんですけどね。

濱田)
こういう紙の話って、写真集とかでも同じですか?

芳田)
そうですね。写真集とか、手で触れる作品でいうと、指先から受ける印象がプリントよりも大事になります。ツルツルした手触りとザラザラした手触り、サラサラした手触りとペタペタした手触り。そこから受ける印象には大きな違いがありますね。
あと、薄い紙に印刷した写真は軽い印象になるし、厚く硬い紙に印刷した写真は豪華とか重厚な印象になりやすいですね。

濱田)
うーん…これから自分の写真をプリントするんですけど、どうやって選べば…。

芳田)
選び方のコツは、まずは光沢してるかしてないかで選んで、光沢してるならテカテカか半光沢か、光沢してないなら紙のテクスチャのないマット紙なのかテクスチャのあるアート紙か、あるいはテクスチャがありながら光沢感のあるバライタ紙か。っていうふうに、細分化して絞り込んでいくといいと思います。
基本的には、その写真をどういう印象で見せたいか、伝えたいか、ってことですけど、その写真を撮ったときの自分の印象とか気持ちとか、しっくりくる質感はどれかということでも良いと思います。例えば、しっとりとした雰囲気にしたいのに、ギラギラな光沢紙は違うよね、みたいな。

濱田)
あー。確かに、相性みたいなことですね。

芳田)
あと、やり方としては、一般的な光沢紙が写真としてはベーシックな紙なので、一度ふつうの光沢紙にプリントしてみて、そこから考えてみるのもいいですよ。モニターで見ている印象に比較的近く出るのも光沢紙なので。

濱田)
光沢紙の方がモニターとのギャップを感じにくい?

芳田)
そうそう。

濱田)
あと、紙によって写真の時間帯が違うような感じがします。
青っぽい方が朝、オレンジっぽいのが夕方、みたいな。

芳田)
いいところに気づきましたね。
写真全体の色が与える印象の違いですね。前回も見た、青っぽいモノクロと赤っぽいモノクロって話も同じで、要はそれって寒色・暖色なんですね。寒色の方が寒そうで夕方よりは朝っぽく見えるし、暖色の方が暖かそうで夕日みたいな感じがしてくる。

濱田)
うんうん、確かに。

芳田)
あと温度感で言うと、ツルツルテカテカした紙の方が冷たい感じ、無機質な感じがして、紙の質感とか繊維がある方が温もりを感じる、有機的な感じがする、というのがありますね。

濱田)
そうですね。写真に写っている被写体が何かというのも、紙を選ぶ要素になってきますね。
知れば知るほど面白い!でも紙どれにするか迷っちゃいます…

芳田)
今回プリントする写真を見てみましょうか。

濱田)
これはマレーシアで撮った街なかの写真です。
撮っていて、暖かい印象で 温もりを感じたから この紙かなぁ(ピクトリコプロ・ソフトグロスペーパー)。

芳田)
確かにこれ合いそうですね。バライタっぽい紙ですが、そこまでカチッとしていない、少しラフな印象の紙です。紙の白にも温かみがあります。
そしたら、同じ写真を光沢紙とこの紙とで両方出して見てみましょう。

濱田)
すごーい!自分の写真を初めてちゃんと紙に出しましたけど、モニターで見ているのとは全然違って、ちゃんとモノになっているというか、重さがあるというか。

芳田)
物質感ですね。これも写真をプリントする意味の大きなポイントですね。
プリントで写真を表現することで、表現の幅が格段に広くなって、豊かになるんですね。
モニターは1台あればデータを差し替えて何千枚でも表示できて便利だけど、画面の質感とか大きさを自在に変えることはできないし。

濱田)
なるほどなぁ 。比べてみるとやっぱりソフトグロスの方がいいですね。暖かい感じが出てる。
マレーシアは暑かったんです。こっちの方が、その温度感とか湿度とか、現地で感じたことが伝えられると思います。シンプルに好きだし。面白い。

芳田)
立体感も出てる感じがしますね。この通りの中に入っていけそうな感じ。

濱田)
確かに。奥まで続いてる感じがします。いいですね。

芳田)
やっぱり、人が撮ったサンプルの写真だけじゃなくて、自分が撮った写真でやってみる方が、よりわかりますよね。

濱田)
全然違いますね。実践までできて、すごく面白かったです。
こういう体験をしたことで、これから写真を見る目も変わりそうです。一歩深く見ることができる気がする。

芳田)
じゃあプリントはこれで決定で、次はこれを額装してみましょう!

濱田)
楽しみです!

芳田)
今回はお試しということでA4サイズでやりましたけど、同じ写真でもプリントの大きさを変えると、印象だけでなく見えてくるものや感じ取れるものが違ってくるので、そういうところも今後試してみてください。

濱田)
学校には大判プリンターもあるので、いずれやってみたいです!

芳田)
そしたらまたプリント見せてくださいね。

濱田)
ぜひ!


というわけで、「写真をプリントする意味」を考えながら、濱田さんと第4回まで進めてきましたが、次回はこのプリントを額装して、作品として仕上げていきます。
レクチャーは別の先生にバトンタッチしつつ、私も引き続き、濱田さんの実践を見守っていきます。

 

芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
日本写真芸術専門学校 非常勤講師
株式会社 DNP メディア・アート所属、DNP グループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/

 

↓PicoN!アプリインストールはこちら

関連記事