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ジョナス・ベンディクセン(Jonas Bendiksen)『THE BOOK OF VELES』写真家・鈴木竣也の特別な一冊。

「ー私はフォトジャーナリストだ。フェイクニュースは使わない。カメラを使いストーリーを伝える。だけど、フェイクニュースを目にする時、それに惹かれてしまうことがある。」
ジョナス・ベンディクセン(Jonas Bendiksen) GOST books  2021.07出版 『THE BOOK OF VELES』より

 この文は、今回私が紹介したい写真集の冒頭で著者であるジョナス・ベンディクセンが綴った文章。1977年生まれでフォトジャーナリストとして20年程活動しているジョナス。2016年の米国大統領選挙で注目を集めたフェイクニュースが、北マケドニアのヴェレスという小さな街が発信源となっていることを知り、その町を訪れ取材を重ね、2021年7月に写真集として発表している。

そもそも私がこの作家に興味を持ったきっかけは、NPIの写真集の授業で『Satellite』(2006) という彼の別作品を読んだ時からだった。世界的な写真家集団である「Magnum Photos」の一員として33歳から正規会員として活動している彼は、緻密なドキュメンタリーでありながら個性に溢れた作品を作っており、私の目標の一人となっていた。『Satellite』 や彼がWorld Press Photoを受賞するきっかけとなった『The Places We Live』 (2008) は中古でも数万円を超え簡単には手を出せない。『THE BOOK OF VELES』も本屋さんを通じて版元に問い合わせてみたところ8月末時点で売り切れ状態。運よく海外のショップがオンライン上で販売しているものを定価で購入できたが、その人気は留まることがない。

大きさは22cm x 16.5cm。写真集として決して大きくない判型だ。中身も文書のスキャンデータやWikipediaのスクリーンショットなど写真だけでなく文章やデータで編集されている。ヴェレスという町の宗教的背景や歴史的背景、離職率が上がり改善する余地がないほどに廃れた現実を、市長や市民への取材を元に丁寧にドキュメントされている。そんな希望を持てなかった市民を照らした一つの光がフェイクニュース産業だった。10代の若者が家族3人でやっとのことで稼いだお金を、フェイクニュースを書くことで十分に賄うことができるようになったのだ。

ー僕はただ人々が読みたいと思うことを書いた。読者が記事を全部を信じているわけでは無いし、与えた物にお金を払う人がいたというだけだ。
ー本文中、10代の少年の言葉の抜粋

冒頭のジョナスの言葉と市民の言葉、そして暗く重たい空気を纏った粒子の粗い写真にはジョナスの心情の変化や市民の葛藤が色濃く写されている。それはまるで写真が真実を写すだけではない、過剰な編集によりメッセージを強調する写真表現のあり方を再考する一冊であるようにも感じられた。全編英語となっているが、写真というメディアに興味がある方は、ぜひ機会があれば手に取って読んでいただきたい一冊。

 

文・鈴木竣也
@shnszy_photos

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