RAW現像のポイント・24のキーワード〈第4回〉

カラーマネージメントと並んで、多くのフォトグラファーから「難しい」「苦手」「自信がない」という声を聞くRAW現像について考えてみます。
なるべくわかりやすくするために、24のキーワードをもとに進めていくことにします。一度通して読んでみても良いですし、実際にRAW現像を進めながら読んでも良いと思います。
皆様のRAW現像にとって何かのヒントになれば嬉しいです。

今回は第4回、最終回になります。第1回からご覧ください。



 

19. たくさんの銀塩プリントを見て自分の中に基準を作る

RAW現像の仕上がりは何を目指していけばいいのか、そこに迷う人もいるでしょう。そうして先生に聞くと最後に「答えは自分の中にしかない」と言われ、困ってしまう。でもそれは意地悪とかではありません。忠実色の答えなら被写体にありますが、表現としての色調の答えは表現する当人の中にしかなく、他人がとやかく言えるものではないからです。

とはいっても、何かヒントになるものがないとわからない、ということもあるでしょう。何かと比較して相対的に評価することはできても、比較対象なしに絶対的な評価をすることは難しいものです。そもそも絶対的な評価というのも、これまで経験してきたことの蓄積が比較対象となっているといえます。
つまり、「何を目指せばいいかわからない」「まず評価と言われても、どう評価すればいいかわからない」という状況は、自分の中に比較対象が蓄積されていない状況であるといえるでしょう。

ということで、たくさんのプリントを見て自分の中に基準を作る必要があります。ここで重要なのは、「良いプリント」と呼ばれるものをたくさん見ることです。気を付けたいのは、世の中に出回っている「作品プリント」すべてが「良いプリント」とは限らないということです。特にデジタルプリントにはクオリティの低いものも少なくありません。そこでおすすめなのが、対象を銀塩プリントに絞り、それも美術館やギャラリーで、お墨付きを得ているものを見ることです。良いプリントをたくさん見て、審美眼を鍛えましょう。

技法として「ゼラチンシルバープリント」と書かれているのがモノクロの銀塩プリント、「発色現像方式印画」「クロモジェニックプリント」「タイプCプリント」と書かれているのがカラーの銀塩プリントです。そのほかにも写真の技法は無数にあります。東京都写真美術館がわかりやすく整理した表を作成していますので、鑑賞時の参考にしてみてください。

20. テクニックより目

たくさんのプリントを見ることで養いたい大切なことは、「不自然さ」に気づけるようになることです。
連続的であるべきグラデーションが段差やムラになっている、被写体の輪郭をなぞるように色の帯が出ている、特定の色相だけ妙に彩度が高くなっている、筋状のノイズやムラが出ている……。そういったことは、デジタル写真ではちょっとした「うっかり」で起こってしまいます。しかし銀塩プリントでは、正しい方法で作業・処理していれば、特別な操作をしない限りそういったことは起こりません。

プリントに不自然な点があると、見る人はそこに気を取られます。すると、見せたいものや伝えたいことに意識を向けてもらえなくなってしまいます。その不自然さを作品のコンセプトにするなどの理由がない限り、作品の意図を邪魔する不自然さは排除するべきです。そのためには、そもそも何が不自然なのかを見極められないといけない、というわけです。

こうして話していくと、RAW現像のファーストステップである「評価」の大切さをより感じられるのではないでしょうか。テクニックよりも、まずは目なのです。見る目がなければ、どんなテクニックも的確に使うことができないのです。

21. 暗室でのプリント経験

さて、ここまでお伝えしてきたことを一気に経験できるのが、暗室での銀塩プリントです。
「ここに来てアナログかよ」と思われるかもしれませんが、冗談抜きです。実際これまでも、「RAW現像の上達の近道は?」と聞かれると必ず「暗室でプリントをすること」と答えています。自宅に暗室を作りましょうとは言いません、暗室がある学校に通われている学生さんなら学校で、一般の方なら公開講座、レンタル暗室でのワークショップなど、方法はいくつかあります。機材や薬品の問題で近い将来できなくなるかもしれませんが、今ならまだ可能ですので、一度ぜひ経験してみてください。経験はあるがピンと来なかったという方は、もう一度経験してみてください。銀塩もデジタルも、写真をつくることの本質は同じだということがわかり、視野が一気に広がると思います。

22. プリセットの使い手ではなく作り手になる

「そんなことしなくても、RAW現像のカッコいいプリセットがたくさんあるじゃん」と思う方もいるかもしれません。確かに、今ではいろんなところからいろんなプリセットが提供されていて、無料のものもあります。「こういう見せ方もアリか」と参考にしたり、「それっぽい雰囲気」を手軽に作ったりするには良い方法かもしれません。ただ、それをそのまま使ったところで、それを「私の作品です」といえるでしょうか。

写真は撮るだけではなく、仕上げて伝えるところまでで作品です。どうせなら、プリセットの使い手ではなく作り手になりましょう。そこにはトライアンドエラーと研究の蓄積が必要になりますが、それをやった分だけ、自分の作風の土台になっていきます。

23. 写真はRAW現像で生まれ変わる

RAW現像が終わったからといってRAWデータを削除する人はいないと思いますが(とはいえ、プリント後のネガフィルムを捨てる人がいるようなので……)、現像済み画像だけでなくRAWデータもしっかり保管しておきましょう。それは、写真がRAW現像で生まれ変わるからです。

例えば10年前に撮影したRAWデータを、いま再びRAW現像してみるとどうなるか。ほとんどの場合、撮影当時とは違う仕上がりになるはずです。それは、当時よりもRAW現像ソフトの技術が向上しているから、当時よりもRAW現像の腕が上がったから、そして、当時と今とでは心境や感じ方が違うからです。

「RAWデータは楽譜で、RAW現像は演奏」という言葉をまた思い出してみましょう。楽譜が残っていれば、その時々の自分で演奏することができるのです。10年も経てば撮影時の自分などもはや他人に近い存在です。当時とはまた違う「今の自分」の解釈で演奏=RAW現像することができるはずですし、そこから当時気づかなかった発見を得るようなこともあるかもしれません。

24. プリントすることのメリット

モニターで仕上がりを確認できるようになって、プリントすることはどうしても減っていくと思うのですが、プリントすることのメリットを最後に3つご紹介します。

一つ目は、調整の加減を身に付けることに有効だということ。ストレートプリントからスタートしているのであれば、必ずプリントで比較していきましょう。どのパラメーターをどの程度動かすとどう画が変わるのか、身をもって覚えていくことができます。モニター上でも変化はわかりますが、プリントすることでわかること、身に付くことがたくさんあります。モニターでは大きく変わって見えるのにプリントだとあまりわからないとか、逆にモニターではさほど変わって見えないのにプリントだとかなり変わって見える、ということもよくあります。

二つ目は、プリントすることで見えるものがあるということ。モニター上でどんなに隅々まで画像を見ていても、プリントして初めて「こんなものが写っていたのか」「変になっている部分がこんなところにあった」と気づくことがあります。モニターでは拡大して細部だけを見ることができますが、細部を見ながら全体も見るのはプリントの方が向いています。意図しない写り込みや粗を見つけるという意味でも、視点を変えて写真を見るという意味でも、プリントして見ることが有効です。

三つ目は、セレクトや順番、組み合わせなどを決める際、並び替えが自由自在にできるということ。モニター上でビューアーソフトを使って行うこともできますが、これをプリントで行う方は多いです。特にブックや写真集、展示の構成やレイアウトを考えるときは、プリントを実際に並べてみることをお勧めします。直感に応じて自由にプリントを組み合わせる、並べ替える、隠す、といった動作は、モニター上ではなかなか難しいものがありますが、並べる場所(床やテーブル)さえあれば、プリントだと非常に楽です。なお、こういう用途でのプリントであれば、サイズはL判など小さくて構いませんし、絵柄がしっかりわかれば用紙もそこまで高級である必要はありません。

 


 

いかがでしたでしょうか。「RAW現像のポイント・24のキーワード」はこれで以上です。
RAWデータをソフトで開けばとりあえず「それっぽい画像」ができるからこそ、しっかり考えて、作品として仕上げてほしい。そんな気持ちを込めました。

RAW現像で大切なことは、ソフトの使い方よりも、自分の画づくり・色づくりをどうするかということです。使うソフトが変わったらできなくなってしまうような、ソフトのバージョンが変わったら陳腐化してしまうようなオペレーションスキルより、その根本にある表現の部分に向き合い、考えるということです。そうしていけば、仮にソフトのバージョンアップでUIが大幅変更されても、違うソフトを使うような場面がやってきても、比較的楽に対応できるはずです。

あとは、どうしても数をやることが必要になってきます。イメージして、考えて、評価→設計→調整を何度も繰り返せば、自分なりのスタイル、作風が見えてきます。そしてその表現の答えは一つではなく、写真家の数だけ存在します。ぜひみなさんも、自分なりの答えを見つけてください。

 

文・芳田 賢明
イメージングディレクター/フォトグラファー
株式会社DNPメディア・アート所属、DNPグループ認定マイスター。
写真制作ディレクターとして、写真集やアート分野で活動。フォトグラファーとしては、ポートレートや都市のスナップ、舞台裏のオフショットを中心に撮影。
https://www.instagram.com/takaaki_yoshida_/

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