この連載では、ライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。今回は、流行のジャパニーズ・ホラー作家をご紹介。
昨今国内でホラーブームが起こっている。一番有名な例は、雨穴氏による『変な家』。ネット発で書籍が大ヒット、コミカライズや映画化まで実現したビッグコンテンツとなった。
YouTubeでも質の高いホラー番組が数々生まれていたり、テレビ東京のプロデューサー、大森時生氏によるフェイクドキュメンタリー『TXQ FICTION イシナガキクエを探しています』はトレンド入りの話題となった。怪談やオカルトコンテンツも配信やイベントなどで根強いファンがいるジャンルになっている。
文芸界隈でも、ホラー小説がブームを巻き起こしている。今回は特にヒット作品を生み独自のポジションを築いている2人の若手作家を紹介する。
自由慄 梨
著者は『SCP財団』という共同創作サイトで活動し、その中でヒット作を多数生み出している気鋭の作家、梨。小説だけではなく、X(旧Twitter)上で文章と画像を組み合わせた作品を発表したり、展示イベントをやったり、文章をベースとした創作活動を多角的に行っている。本作は『かわいそ笑』『6』に続く3冊目の単著である。
『自由慄』は名の通り「自由律俳句」のような短文と、短文の背景となった物語のパートで構成されている。ホラー作品に一般的な怖くなったり嫌な気持ちになるというものに加えて少しアート作品のような仕立てが特徴的だ。配置された短文の言葉から、物語を繋ぎ合わせて、読んだ人ひとりひとりが考察する余白があるつくりになっている。
以前梨氏本人が語っていた内容として面白かったのが、「自分自身の作品がSNS上で検索された時の読者の反応も考慮して、本のタイトルを考える」ということだ。読者が『かわいそ笑』という作品の感想を検索したときに、本の感想だけではなく、関係がない一般のユーザーによる「かわいそ笑」という投稿が多数見られる…といった具合だ。
小説は読者が物語を読むもの、というだけでなく、派生した体験まで想定し作品を発表する、というのは現代的な感覚で興味深いし、数年後にはスタンダードになるかもしれない。
梨氏の作品発表のペースから考えると非常に筆が早い人物なのかと思う。若手ホラー作家の騎手として、今後の活動も見逃せない。
近畿地方のある場所について 背筋
オカルトライターの著者が、記事やブログ、関係者のインタビューを通して、とある場所を中心にした怪異が徐々に浮かび上がってくる…というモキュメンタリーの手法を使った作品。
本作はインターネット投稿サイト上で話題となり、23年8月に書籍が発売された。作者である背筋氏はこれがデビュー作となる。正体不明の著者による作品はじわじわとホラー界隈で広がっていき、24年6月末で異例の20万部というロングセラー作品となった。
作品自体のホラーの吸引力は勿論、短編を繋ぎ合わせて一つの大きな答えに向かうという構成も、読み物として魅力的だ。
小説として読みやすい文体でありながら、ホラー映画のようなゾクゾクする体感がある読み応えのある1冊。9月には背筋氏による新作も発表されるそうだ。
ブームとなっている今、ホラー作品の楽しみ方を広げてくれる両名の作品を是非手に取ってみてほしい。映像とは異なる面白さがあるはずだ。
文・写真:ライター中尾
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