この連載では、ライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。今回は「手書き文字」に関する2冊。
職業柄、Webや動画周りのデザインを組めるデザイナーさんと仕事をすることが多い。アートやデザインといった領域には興味があるが、デザインが自身の本業ではない私にとって、イラストレーター等のツールを使いこなす彼らを密かに「羨ましい…」と思っていた。
しかし使うきっかけがなければスキルは習得できない。なにかきっかけがあればなーとぼんやり思っていたところ、年末に友人が主催している企画のロゴを作りたいという話を聞いた。脈絡もなく、つい口を出た一言が「私に作らせて!」だった。
その日から、街中にある良いロゴを探すように。薬局のロゴ、住宅地のマンションのプレート、初詣の神社の案内板…ロゴってどう作ったらいいのか?いいロゴデザインってなんなのか?仕事でロゴを作ってくれた人が意識してたことは思い出して…などなど
考えた結果、良いロゴの条件は①視認性②らしさ③汎用性かなと結論づけた。
もちろんここに流行など時勢的な要素も関わるのだろう。
ロゴを作ろうという段階で、いくつかラフでイメージを書いていく。今回作りたいロゴは漢字とカタカナの組み合わせ。しかも若干漢字の画数が多く、素人にはその見栄えを良くするのが少し難しいものだった。
そこで良いデザインを参考にしたいと思い、書店で手に取ったのが次の2冊だ。
新装復刻版 現代図案文字大集成(辻克己/青幻舎)
著者は大正~昭和初期に活躍したグラフィックデザイナー。商業デザイン分野において後世に大きな影響を与えた。収録されている作品は特殊文字、映画演劇広告文字、商品文字、書体と活字体、いろは文字、英文字、マーク集の全7編。1937年に刊行されたものが新装版として復刊したそうだ。そのデザインは現代の感覚で照らし合わせても、どこかスタイリッシュに映るものがある。レトロな文字デザインやカタカナひらがなの組み合わせなど、まとまったものを家に置いていつでも参照したいときにおすすめの一冊。
HAND BOOK 大原大次郎 Works & Process(大原大次郎/グラフィック社)
手書き文字で活躍しているデザイナーは多くいるが、大原大次郎さんのクリエイティブはカルチャー好きなら一度は目にしたことがあるだろう。(偶然にも先にあげた書籍のブックデザインも彼が手掛けたものだった。)
大原さんはアーティストの星野源さんがソロで活動する以前にリーダーを勤めていたインストバンド「SAKEROCK」の活動と密接に関わってきた。彼らのアルバムジャケットやツアーグッズなど、星野さん本人と試行錯誤しながら作り上げてきたのが彼だ。
SAKEROCKは2000年に結成し2015年に解散。結成当時はCD等フィジカルで購入する文化があり、大原氏による手書きのデザインや趣向を凝らしたアートワークが特徴的だった。
本書の刊行を記念した展示が銀座・gggで先月末まで実施されており、携わった作品とその過程を間近で見られる機会があった。その膨大な仕事量と作品に合わせて遊び心ある表現を追及していく熱量に圧倒されたのだが、ラフ段階のデザインも微細な修正を何度も繰り返している跡があり、一人の丁寧な手仕事からクリエイティブが生まれるんだ…と感激した。
これらの本を読み、ロゴ作成のためにラフデザインは手書きで丁寧にした。結果、イラストレーターを複雑に扱うことがなくほぼ手書きデザインのロゴが完成した。友人にはなかなか気に入ってもらえた(はずだと信じたい)。
文・写真:ライター中尾
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