この連載では、ライターの中尾がこれまで読んできた本の中から、アートやデザインに纏わるおすすめの書籍をご紹介します。
今回は、累計100万部を突破した「アニメ制作」を題材にした青春漫画。
映像研には手を出すな!(大童澄瞳/小学館)
本作は大童澄瞳氏によるデビュー作。既刊8巻で現在も連載中だ。すでにアニメ化・実写化されておりご存知の方も多いかもしれない。
<あらすじ>
舞台は2050年代。芝浜高校に入学した浅草みどりは、自分のアニメを作るのが夢。友人の金森さやか、偶然出会ったアニメーター志望の水崎ツバメと意気投合し、女子高生3人は「映像研」を立ち上げる。
2020年にサイエンスSARU制作によるアニメ化は、湯浅政明監督による原作の世界観を活かしたストーリーと質の高いアニメーションで話題になり、国内外の映像アワードで多数の賞を受賞した。主人公の浅草みどりの声を女優の伊藤沙莉が務め、オープニングの音楽はラップユニットchelmicoが提供するなど、カルチャー色溢れる布陣も当時新鮮だった。
同年、乃木坂46メンバー主演による実写ドラマ・映画も放映された。
デビュー作でアニメ化・ドラマ化・映画化といったメディアミックスを実現した本作品。それには原作に特別な求心力が宿っているからなのだが、今回その魅力をいくつかの点から解説していく。
キャラクターの魅力
あらすじで紹介した通り、『映像研には手を出すな!』はアニメ作りを夢見る女子高生たちの物語。創作への向き合い方はそれぞれ異なるが、三者三様に愛らしいのだ。
まず、主人公の浅草みどり。彼女は自分の思い描く「最強の世界」をアニメで伝えたいと、自身の創作に奮闘する。メカや動物が好きでアニメーションの舞台設定には強いこだわりがあり好奇心旺盛。一方で内向的で小心者な一面があり、人との丁寧なコミュニケーションは避けがちだ。一次創作の「クリエイター気質」の強い人間だ。
水崎ツバメは人当たりがよいお嬢様。学生でありながら人気モデルとして仕事もしており、巷ではちょっとした有名人でもある。両親にアニメーターになることを反対されていたが、本人はアニメーター志望で、人物描写やアニメの動きのリアルを追求することに長けている。
そして長身で黒髪ロングヘアの金森さやか。彼女は映像研でプロデューサーの役割を担う。本人はアニメそのものにさほど興味はないが、作品をスケジュール通りに仕上げるよう浅草や水崎のようなクリエイターをコントロールしたり、PRのためにSNSを駆使したり、アニメ制作が商業的に成り立つよう模索したり、外交を行ったり…ビジネス的な視点を持ちながら映像研を引っ張っていく存在だ。
この金森さやかと浅草みどりの関係から、プロデューサーとクリエイターが二人三脚となりクリエイションを行っていることがよく分かる。若い頃の鈴木敏夫と宮崎駿のような雰囲気と言ってもいいだろう。
構成の魅力
映像研はキャラクターそれぞれもアイコニックなのだが、メインストーリーの中で彼女たちが制作したアニメが本編でしっかりと描かれる。それらは簡素なものではなく、単体で作品になり得るような骨太な設定とストーリーが存在する。既刊8巻で彼女たちが手がけたアニメーションは5作ほど。アニメ制作を題材にした作品で、劇中作を丁寧に描くというチャレンジは、作者に覚悟や胆力がないとできることではないだろう。
漫画表現の魅力
映像研の特徴のひとつとして、コマの斬新な表現が挙げられる。代表的なものが登場人物によるセリフ・吹き出しがパースに沿って書かれているのだ。
参考
https://x.com/Eizouken_anime/status/1194902792516718592
これにより、一コマでストーリーを進めながらも登場人物の位置関係や背景の雰囲気がより伝えることができる。このようなユニークな構図は度々登場するので、是非読んでチェックしてみてほしい。
理想の表現をするために、悩んだり、協力したり、時には一人で考え抜いたり…映像研のキャラクターたちの言動は、創作活動をするあらゆる人を勇気づける。物語はまだまだ大きくなりそうな予感。壁にぶつかっている人にも、新しいことを始めたい人にも、青春を追体験したい人にもおすすめの作品だ。
文・写真:ライター中尾
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